「けほっ・・・ごほっ」



―――・・・体が熱い。
喉が痛い。
頭も痛い。



・・・俺・・・やっぱり一人だね・・・。






・・・暗くて、寒くて。
硬いベッドがひとつしかない、俺の部屋。
俺はそこで、毛布に包まってじっとしていた。

こんなところにいれば、熱を出すことなんて当たり前だった。
・・・でも、そこから出られない理由が、あった。



―――母さんが・・・怖いから。



俺を殺そうともした、・・・義理の母親。


それでも俺は、母さんが好きだったから。
気に入られようとして、なんでもやった。

・・・でも母さんは、俺を認めようとはしなかった。




俺には、一人の腹違いのアニキがいる。
・・・アニキは母さんの一人息子で、よく可愛がられていた。


でも、俺はアニキが大好きだった。
まるで俺が本当の弟だというように、やさしく接してくれた。

本当の弟じゃ、ないのに。






「・・・げほっ・・・けほッ」



咳がだんだんひどくなってゆく。
喉の痛みも増してくる。
頭だって、うずくように痛い。


・・・なのに。
だれも、そばにはいなくて。

硬いベッドの上で、荒い呼吸を繰り返すしか出来なくて。



・・・・・助、けて。



・・・声が出ない。
助けて。
誰か。
・・・助けて・・・。





「・・・おーい・・・悟浄?・・・ッ悟浄!?」


ドアが開く音。


―――・・・あ、れ・・・?
アニキの声だ・・・。



突然俺の体が浮いた。
その直後、・・・俺は、アニキの腕の中にいた。



「悟浄!!おいしっかりしろってんだ!生きてっか!?」
「・・・あに・・・き?」

ぼやけた視界の中にかすかに映った、アニキの心配そうな顔。
俺のこと、心配してくれんの?

「・・・へへ・・・生きてるよ・・・ちゃんと」

か細くてかすれた声で答えた。

・・・生きてる、と。

そう言ったとたん、アニキは安心した顔になった。

「・・・よかった・・・。・・・なんか食うモン持ってきてやるからな。ちょっとまって」
「行かないで・・・アニキ」

アニキの言葉をさえぎって、声を振り絞った。
首に腕を回しながら。
重い頭を胸に預けながら。
もう一度、声を出す。


「・・・行かないで・・・俺を・・・おいてかないで・・・」


一人にしないで。
寂しいよ。

寂しいから。


「・・・ッぇ・・・ひくっ・・・」
「・・・・・悟、浄」



ぎゅっと、俺を抱きしめた。

涙がアニキのシャツを濡らす。

・・・あったかい。
寒くない。

・・・でも、俺・・・本当は・・・。


・・・・・やめた。やっぱり言わない事にする。
アニキが、悲しむから。



なぁ、アニキ。
俺の熱が冷めるまで・・・一緒にいて、くれる?
俺のそばにいて、くれる?




―――・・・・うぅん・・・ほんの少しでいいから。

ほんの、少しだけの間。




・・・俺を強く、抱きしめていて。

fin.