<気づけばそこにハッピーエンド>



「出かけんぞーカイナ」
「あぁ、ちょっとまってくれ」



ポニーテールにしても腰まで届くシェンの銀髪を追いかけ、隣に並ぶ。
今日は何の日だか、忙しいお前に気づかせてやろうと思って。



「どこかお出かけですか?」

ドアを開けた瞬間、ふと声をかけられて。
振り向けば、涼しげな微笑みを浮かべたマハードの姿があった。

「あーちょっとな、いってくんぜ」
「夕方には帰る…忙しいのに、すまない」

眼鏡の奥の淡い紫の瞳が一瞬、鋭くなった。
しかしシェンは気づかなかったらしい。
俺の手を引いて、外へと歩き出した。














…ぽつんとその場に残された私の背を。


「おっししょーサマ!そんなとこで何してんですかっ!」
「うっ」

相変わらずの馬鹿力で勢いよく叩いたのは、弟子にあたるマナだった。

背中に手のひらがの痕が残るような強さ。
思わずむせてしまった。

「わっ、すいません!…でも、まさかそこでつっ立って本読むわけじゃないですよね?」
「…あぁ、えぇ…まぁ」

苦笑しながらそばにあった椅子に座って本を開く。
マナが紅茶を淹れてくれて、一口飲んで気持ちを落ち着かせた。



…しかし脳裏に延々と繰り返し流れるのは、カイナのことで。
昨日だって、ずっとシェンの部屋にいたでしょう?



…いえ、カイナはカイナですから、好きにしたらいいんですよ。
私がどうこう言えるような立場では…





「……」
「…お師匠サマ?」


葛藤。

嫉妬。

ソレに対する、自己嫌悪。






「…私、最近おかしいんです」
「?」
「心が痛い。気を抜けば何かがあふれそうな気がしてるんです」

マナが目をぱちくりする。
眉根をひそめたマナが私の目をのぞいた。


「…まさか、恋してるんじゃ」
「……」

黙り込んだ私を暗黙の了解ととらえ、
しばらくうーんと考え込んだ後、はっとなにか気づいたように今度はにっこりと満面の笑みを向けてきた。


「…大丈夫ですよ!今日の夜、きっとなにかが変わるはずですから!」


自信満々にそういうマナを見上げ、私は言われた言葉を頭の中で反芻していた。




「今日の、夜?」























「…これとこれなんかどーよ」

「…ふむ、こっちのほうがあいつらしいと思うが」

「お?決まり?」

「あぁ。お前がいてくれて助かった」

「いーってことよ。しっかしあのオレらが出てく時のあいつの目。
ちっと誤解されてるような気ィすんだけど」

「…気づいてたのか。…まぁ、意外に嫉妬深いからな」



あいつの本質を大体なら知っている。
だから今回わざと、というわけではないが。

帰ってから、どんな顔で出迎えてくれるのだろう。
瞳をそらされてしまっても、仕方が無いか。

別に後ろめたいことをしているわけじゃない。
むしろ、今日はお前を喜ばせるために動いている。



「帰ってからあいつの反応が楽しみだぜ。
あとでソレ、教えてくれな」

ぽんぽんと、俺の頭を軽く叩くようになでた。


「あぁ」






笑ってくれたら、一番嬉しいのだが。

















「あ!おかえりなさい二人とも!」

家に帰ってきた俺達を満面の笑みで迎えてくれる、マナ。
フリフリのエプロンに少しだけクリームが付いていた。

「おー、たでーま」
「用意はできているか?」
「ばっちりよー、アタシを誰だと思ってるの!」

自信満々に胸を張るマナのくせっ毛をそうかそうかとシェンがなでた。
嬉しそうにしているマナの後ろには、もう準備万端の会場が出来上がっていた。


「お師匠サマ、きっと喜んでくれるよー!」


俺はふと、その言葉に笑みをこぼした。





















…そろそろあいつが自分の部屋から出てくる時間。

がちゃ、と上の階からドアノブのひねる音がした。






「…マナ、夕飯の」
「お師匠サマ!」



がたん、マナが椅子から立ち上がる音。
ぽん、シェンが魔法で花を散らす音。



ぱぁん、




「お誕生日おめでとーございまーす!」




皆のクラッカーが、はじける音。








「…え?」

「…何ぼさっとしてんだよ今日の主役!」


シェンがにやけながら野次を飛ばす。
俺が目の前まで行って、手を引いた。


「…今日はお前の誕生日だろう?マハード」

「!」








目を見開いて、固まるマハード。

「…夕飯とケーキ、食おう」

見上げれば、ふっといまにも泣き出しそうな笑顔が、こぼれた。























「美味しかったですね、とっても」

「そうだな…マナのほうが料理うまいんじゃないか」

「…あ、そんなこというともう作ってあげませんから」

「…うそだ、嘘」


楽しい時間をすごしたあとマハードの部屋に入らせてもらい、
そんな談笑をしばらくしていたが、ふと思い出し、ラッピングされた箱をひょいとマハードに渡した。

「これ…誕生日の」
「…!」

にっこりと笑んで礼を言いながら受け取ると、綺麗にはがし始めた。
どうせ捨ててしまうのだから破けばいいのにと思うが、こいつは几帳面だ。



「…あ、眼鏡…」
「…もうそろそろ変え時だろう?あれは…」

指差した先の、今までマハードが使っていた眼鏡はもう何度落としたことか分からない。
しかもすこし端が欠けていた。

「ありがとうございます…大事にしますね」

すごく嬉しそうに、すっとそれを掛ける。
やはり似合う。
…しかしあまりにも端整すぎる。俺は直視できなかった。


するとふっと手がのびてきて。



「…っ」



目の前に、綺麗な顔。
目をそらせなくて。








「…嫉妬、していました。ごめんなさい」
「…」
「許して、ください」














軽く、触れた唇。
何度も、暖かい柔らかな感触がする。

眼鏡をかけたままのマハードの顔がぼやけて見えないくらいの位置。



「…ん」



抱きすくめられる。
細い腕のどこにそんな力があるというのか。






熱い。







「…ぁ」

「…少しだけ、私に」








じっと、上から見つめられて。
手指を絡めてくるこいつが。









「貴方を下さい」
















…笑んだこいつが、いとおしくて。








Fin.