…俺よりも体格のいいモクバに、見下ろされる。
馬乗りになられたために、動けない。

怒った顔のまま、俺を見つめてくる。
何が言いたい?


















「…なんで自分ひとりで全部やろうとするの?」


それが、しばらくの沈黙を破った第一声だった。






「兄サマが大変ならオレだって手伝う!雑用だって何だっていい…何でもするのに」





…切実に。寂しそうにモクバがいう。
それと同時、俺の手首もぎゅっと締まって痛い。





「…オレは兄サマを助けたい!だから何でも言ってよ!
…無理しないでよ…心配なんだよ…っ…」





見下ろしていた目から涙が落ちた。
俺の頬にぽつ、と当たって流れた。




あまりにも必死な表情が痛々しくて。











「…悪かった…」





おもわず目線をそらしてそう言えば。








「兄サマぁぁ!!」





がばっと上から抱きしめられ、そのままわんわんと泣き出した。


そんなに、つらかったのか。
そんなに、悲しかったのか。


ここまでされなければわからない兄に、俺はなってしまったのだな。











「…すまなかった」










ここまで心配してくれるのは、




きっと、お前しかいない。














優しく頭を撫でて、上にかぶさったモクバの背をとんとん、と、
小さい子にやるようにたたいてやれば。


俺のはだけた胸元に、心臓の鼓動を聞くように
顔をうずめたモクバの寝息が、聞こえた。





















…朝6時。

ふっと目が覚めた。
俺にしては珍しいことだなと思ったが、
そういえば昨日モクバと10時には布団に入っていたことに気づく。

磯野が起こしに来ていない。
それも昨日俺が言った言いつけを守っているからなのだろう。
律儀なやつだ。






「…兄サマ…」
「…モクバ。朝だぞ」



ちゃんと元の体の大きさに戻っている。
少しほっとしたが、何か寂しい気もしたのは何故だろうか。

…まだ涙の跡が柔らかそうな白い頬に残っている。
指でぐいと拭ってやると、そのままぎゅっと手を握られた。


「…やだ。起きたくない…」
「…モクバ…」


また泣きそうな顔になって少々焦る。















『オレは兄サマを助けたい!』

















昨日の、必死なモクバを思い出した。

必死に俺に訴えてくる弟を。



















「…わかった」
「…?」










あぁ、


そうか。
そうしてやればよかったのか。

















「…モクバ、今日は暇か」
「うん…休みだし」
「そうか、ならば少し頼みごとをしようか」











とたん、うずくまっていた泣き顔がぱぁ、と笑顔になった。



「うん!兄サマ!」






















…非現実的なことなどありえん。
認めもせん。




だが。








何かに気づかされるための非現実ならば。


許してやろうと、思う。












fin.