頭が痛い。
寝不足というわけではない。

この目の前の非現実的な現実に俺は頭を抱えている。





「何か変なものでも食べたか」
「んーん?それはないぜぃ」
「…昨日は早く寝たか?」
「ちゃんと10時には寝たよ?ていうか兄サマ、質問おかしいぜぃ…」





…いかん。俺の脳内が非現実的状況に拒否反応を起こしている。












気がつけばもう時計の針は6時40分を指していて。

しかしもう動きたくはなかった。
磯野に今日は仕事は休むと携帯で伝え、壁にもたれたままぼう、と大きくなったモクバを見ていた。







「…とりあえず、服が必要だぜぃ」


ぼそ、とつぶやく。
突然大きくなったので服が入らなかったのだろう。
いずれ使うだろうと思ってモクバにやった俺のお下がりを着ているが…それも少しきつそうに見える。

すっとモクバの前に立つ。
…俺の目線がモクバの鼻あたりということは、身長が俺よりあるということで。
やはりそこにいるのは今まで見下ろしていた小さな弟ではなかった。

少し見上げた先にあるモクバの瞳を見れば、もう子供のような瞳ではなく、切れ長の大人の目をしていた。
しかし挙動はまるきり子供、不思議な感覚に襲われた。



「…着られるか」
「んー、すこしきついけど平気だぜぃ。ありがと兄サマ!」



…俺の服を着た、俺よりも身長が高い弟が嬉しそうに笑う。
それにつられてふと笑みをこぼした自分に疑問を抱く。

なぜ俺はこの状況で平然としていられるのだろうか。
非現実的なことが大嫌いなこの俺が、何故。













…そうして今日一日は部屋でゆっくりと二人で過ごした。
最近はかまってやれなかったから、ちょうどよかった。

だがやはり、一日たっても元に戻りはしなかったが。




「…兄サマ…オレ、いつになったら元に戻れんのかな?」

今までデュエルをしていたデッキをシャッフルしながらモクバが言う。

「…見当がつかんが…朝起きたらそうなっていたんだろう?
そうであれば、明日の朝には元に戻っていると思うのだがな」




…俺の脳内がだんだんとこの目の前の非現実的状況に慣れてきてしまっている。
こんな発言をするとは自分でも予想していなかったが、
どんなに切羽詰っていようがなんであろうが状況に応じて人はきちんと動けることを改めて実感したときでもあった。













夜。10時。


眠そうに、大きい体のまま目を子供のようにこするモクバを見て、もうそんな時間かと俺は立ち上がった。
自分のパジャマを貸したために今日はバスローブで寝ることになる。
胸元が勝手にはだけるのが嫌だったが、仕方が無いか、


「兄サマ、一緒に寝ようぜぃ?」


…とそんなことを考えているときにモクバに話しかけられ、はっと我に返る。


「…俺と、か?」
「昔みたいに一緒に寝たいぜぃ!」


…それは、かまわないが。


「兄サマ早く!」
「…あ、あぁ…、ッ!」


いち早く俺のベッドに寝転がったモクバが、いつもより断然強い力で腕を引いた。
うろたえた俺は立ち止まる間もなくベッドに倒れこむ。



無邪気に抱きついて俺の胸板に顔をうずめる弟。
しかし今は体が大きくなっているためにどうにも動けなくなっていた。

まだまだ甘えたい盛りなのはわかるが、これでは。




「………」
「…?」




しばらくしてふいと目線を上げるモクバ。
じっと俺の目を見た後、


「兄サマ細すぎだぜぃ…こんなんじゃ仕事で体壊すのも当たり前だってば」


苦笑して、腰の細さを寝たまま触って確かめ始める。
少しくすぐったくて身をよじるが、やはり動けない。


「…そんなもの、気合でどうにでもなろう。それに忙しいのは仕方の無いことだ」


そういってくすぐったさから逃げようとしたとき、
モクバの表情がくるりと変わった。

がつ、と手首を握られ、ベッドに埋められる。







「モク、バ」
「…なんだよ、それ」


大人びた顔で怒るモクバが、いきなり俺をベッドに組み敷いた。













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