人の頭に噛み付かれた部分は、さほどひどくはなく。
歯形だけがくっきりと残っていた。

多少痛むが、胸の奥の痛みに比べれば取るに足らない。




自分が勝手に一人行動をしたがゆえに、この痛みと後悔を抱えなければならなくなった。
それは間違いなく、『自業自得』とかいうヤツで。

ジャックとも今日は口を利いていない。
向こうもオレとは話したくないだろうから。















・・・そして、夜。

黙りこくって食べた夕飯はあまり美味くなかった。
早々に床に就いたジャックとは正反対に、オレは眠れずにぼーっと起きていた。


後悔が、オレをひどく落ち込ませる。

胸がうずく。












痛い。痛い。













「・・・ジャック・・・」






静かにそっと、名を呼ぶ。






「・・・馬鹿で、御免な・・・」












もう笑う気力さえない。



真っ暗な闇の中で、独り。
頬が冷たく濡れていることに、しばらくしてから気づいた。















・・・今更何だ、と心の中で嘲笑し、自分も寝ようと体を横たえる。












・・・瞬間だった。













全身に鳥肌が立つような 妙な空気が、

その場に流れていて









そうこの感じは








そう、



まさに










あの







化け、物














「・・・ッ!!」



ぞわりと全身総毛立つ感覚は、 その中心部本体を見なくても感じ取れる異質のものであって。

よほど疲れきっていたのか、死んだように眠るジャックを。
オレは上から覆いかぶさってかばった。




こんな真っ暗闇の中ではまともに戦えるはずもない。
その上かなりの数の気配がある。

ぎゅっと抱きしめると、意外に小さいのかすっぽりと腕の中に納まった。
そのまま、震えながら朝を待った。
だが絶対に、腕を解いたりはしなかった。












朝、ジャックになんと言おう。




肩や背中、足までも。




大勢の化け物・・・ゾンビの歯型で青く変色したなんて。












言えない。





















「・・・タ、リュータ、目を覚ませ!!」





・・・あれ? オレの名前・・・また呼んでくれた?









「・・・ん・・・?」


ふと目を開けたら、真剣な顔でオレを見るジャックが見えた。
そういえば昨日、抱きしめたまま眠ってしまった気がする。


「おはよ、ジャック」

「馬鹿かお前は!!自分の体を犠牲にしてまでゲームのデータを守るな!!」


朝っぱらから平手打ちを食らう。
昨日よりは軽めだったがやはり痛いもんは痛い。

無理して笑ったのに、怒鳴られて少し落ち込む。
体も青く変色した場所がしびれて感覚がない。


「・・・だって・・・もう迷惑掛けたくなかっ」
「だったら起こせ馬鹿・・・お前が死ぬのが一番迷惑なんだよッ!!」


肩を揺さぶって、必死な顔でオレに死ぬなと伝えるジャック。
なんだか昨日よりはわだかまりが解けた感じで。

体は動かなくても、こうして会話が出来る方が数倍、いい。


「・・・オレなりに頑張ったんだけど・・・やっぱ駄目か、へへ」


苦笑してそういうと、ジャックは何も言わずに耳に当てていたヘッドフォンに触れる。
右のふたをはずすと、何か暗証番号でも押すように数回、叩いた。







「・・・治してやる。『直接体感(リアルプレイ)型』だけの機能だ」

「へぇ・・・ってちょ、うわっ」












何をされるのかと思えば、突然服を脱がされた。
体がしびれているので抵抗は出来なかったが、目はきっちりとジャックを捉えていた。






・・・オレの体に斑点のようについている青い歯型の上を。
ジャックの舌がちろちろと舐めているのを、オレは目撃した。







肩を抑えられて、首の横辺りを冷たい舌が這う。
妙な感覚に体が震える。

そのうちに横向きにされ、肩や腕を舐められる。
ぴちゃ、と唾液の音がかすかに耳に届く。


「・・・ん、ぅ」

「・・・ごめん、な」

「・・・・・いまさら謝るな、馬鹿」


相変わらず、馬鹿の連続。
でも今はそれでいい。
何も話せないよりは。




何もしてやれなかったより、は。










「ッ」


もうほとんど痺れが取れ、自由に動けるようになった体で、ぎゅっとジャックを抱きしめた。
自分の生の肌に、ジャックの金属の肌が触れて、冷たい。


「・・・馬鹿でいいよ。ジャックが痛がってるとこ見たくなかったんだ。それだけだから」


少し沈んだオレの声に、小さく離せと身じろぎする主人公。

でももう少し、こうしていたくて。


「・・・でも今考えたら・・・お前に倒してもらった方が早かったかもな。・・・ごめん」


ひたすらごめん、と謝るオレの腕の中でジャックはぴたりと静かになった。


「・・・馬鹿」

「・・・うん」

「調子に乗るな。カッコつけるな」
















「お前が死んだらゲームだけじゃなくて、お前の人生まで終わるんだぞ」
















口調が少し怖い。
怒ったかな、と恐る恐る顔を覗き込んだ。


「・・・ごめんな?」


そうやってもう一度謝ったら、今度はふいと顔を背けられた。
でも抱きしめていることには反抗しなかった。






それが心地よくて落ち着くから。







少し力強く、ジャックを抱きしめた。
















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