『・・・俺の声が聞こえるか?』





・・・それは、間違いなく。

あの画面の向こうの・・・














暇だった。
退屈だった。
だから、その暇をやり過ごすために。

カチ、と電源を付けた。


これが多分、というか、絶対。




始まりだった。














「初めてやるんだよな、コレ」


ドキドキしながらコントローラを握る。
CDのようなディスクが黒い機械に飲まれてゆく。

それはまだ新品で、パッケージは綺麗だった。
しかし他の店では見かけたことがないものだったのでつい、手が伸びてしまった。

ベッドの上で、ディスクが回る音を聞く。
完全に読み込まれたデータが、画面に色となって表れる。

俗に言うホラー系サバイバルゲーム。
そんな雰囲気をかもし出す映像がテレビを埋め尽くす。
じっと一人で見ていれば、ふいに、聞こえる声。





『――――・・・か?』

「・・・?」






何の音だろうか。
ホラー系というのもあってか、少々ビクビクしながらよく耳を澄ましてみる。






『・・・聞こえるのか?』

「・・・え?」







違う。音じゃない。
少し高めの、男の声。









『・・・俺の声が、聞こえるか?』








よく聞こえるのは、確かだが。








「・・・は?・・・ちょ・・・」







何が起きているのか判らない。








『準備はいいな?』

「・・・え?ッうわぁぁあ!!?」



思わずコントローラを画面に向かって投げつけてしまった。
しかし何かが壊れたり、割れたりする音は全くしなかった。

代わりに、ばしっと受け止められる音が、小さな部屋の中で響く。
がしゃん、という金属音が目の前で、する。


とにかく目を疑うしかない。
当たり前である。




パッケージに載っていた、主人公が。

目の前でコントローラを握りつぶしているのだから。







ちゃんとした人型。
地に足つけて立っている。

けれどこいつは、ゲームの中の・・・






「・・・の」

「・・・の?」

「呪われるーーーーーーーー!!!」




顔面蒼白になって雄叫びを上げる。
それをがしっと金属の手でふさいで制した。


「んん、んぐっ」

「うるさい・・・大丈夫だ、俺は何もしない」


ふと手を離す、ゲームの中の主人公。
げほげほベッドの上でむせれば、じっとそれを見てくる。

・・・少し怖い目つき。
しかしどこか子供の顔。
肩が全て金属化している。
これはゲーム上の設定なのだろうか?

赤い瞳に見つめられてどうしようかと思ったときである。

「・・・俺の声が聞こえたなら返事ぐらい返せ」


ぼそ、と悪態をつかれた。
あまりに突然いろんなことが起きすぎて頭がパニックに陥っている。
それなのに『返事ぐらい』という物言いもどうなのだろう。


「・・・お前・・・人驚かせといてそんな事言うわけ?」


こちとらいまだに状況がつかめてねぇのに、とつぶやけば、


「説明書は読んだのか?」


と呆れた声で聞き返された。
あわてて説明書を読み始めれば。







『※注意※
このゲームは暴力・流血などのシーンが含まれています。』


・・・ここまではまぁ、普通のサバイバルホラーなら当たり前の表記だろう。



問題は次の文であった。









『直接体感型(リアルプレイ型)で楽しみたい方は、最初のムービーを見ながら、音声を聞き逃さないようご注意ください。
また間接操作型(コントローラ型)で楽しみたい方は、最初のムービーは見ずにスキップしてください。
そのままゲームが始まりますのでしばらくお待ちください。』




・・・こんなありえない説明書きがあるか。






「・・・んだよ、これ・・・知らな」

「知らなかった、じゃ済まないぞ?説明書はよく読んでから普通やるだろう?」

「んなん読まなくたってやってりゃわかるっつの!!」


ムキになって言い返せば、ぎっとにらまれて一言。


「・・・そんなに八つ裂きにされたいのか?分からず屋が・・・」


シャキン、と金属の指先から太くて長い爪が伸びてきた。
そんなものが目の前で出されると、体にびくりと震えが走る。
無論ゲームの中から飛び出してきたわけだから、ありえないこともありえてしまうのだ。

両方の肩から指、それに脚までもが全て硬い金属。
ゲームだからそれがカッコよく見えるのであって、実際に見ると何ともおぞましい。




「・・・行くぞ」

「え?・・・あ、なぁ!今から止めることって出来ねェの?」


今更往生際が悪いが、ゲームなのだからそれは始めたプレイヤーの勝手じゃぁないのか。

そんな考えは誰にだってあるはずだ。
しかもこのゲームはサバイバルホラー。





「・・・生きて、帰ってこられるのか?」




真剣に問えば、答えた。




「保証はない」





その言葉に怯む、自分。
死ぬなんて、嫌だ。
絶対に。




「・・・やめるのか?」

「・・・!やめられるのか?」


その言葉にようやくほっとする。

しかし。







「やめるのであれば・・・俺を殺せ」

「・・・え?」


電源を切るのではなくて。
目の前にいるこの主人公を。


「早く、殺せ」













・・・何で。
・・・どうして。





・・・どうしてオレは、このゲームを始めようと思ったんだろう。

どうしてオレは、このゲームを手に取ったんだろう。










「・・・ッ電源切るんじゃ、」

「無駄だ。お前は図らずとも直接体感型(リアルプレイ型)を選んだ。
間接操作型(コントローラ型)なら電源は機械にゆだねたんだが・・・」







―――・・・なんで、殺さなきゃいけないんだよ。







「・・・主人公が死んだらGAME OVER。つまり・・・死が終わりなんだ。
だとすれば主人公の俺が死ななければ・・・続行されるというわけだ」







そんなの、馬鹿みてェじゃんか。







「ちょっと待てよ。間接操作型(コントローラ型)はセーブも何もかも普通のゲームと同じにあるんだろ?」

「そうだ」

「・・・じゃぁ・・・直接体感型(リアルプレイ型)は・・・本当にリアルに死ななきゃ・・・」







「・・・あぁ、終わらない」










・・・オレもう、死ぬんだ。
サバイバルホラーのゲームで、単なるゲームで少し遊ぶはずだったのに。


こんなところで、死ぬんだ。













「・・・始めから諦めるのか、お前は」



だってもう、道はないだろう?

そう主人公につぶやいて、力なく立ち上がる。




そんなオレを救ったのか何だったのか。










「生きて帰れば、それでいい」















生きて帰れば、それで。
また退屈な日々が戻ってくる。



それを望んだのは。

退屈を嫌ってこんなゲームを始めた、オレ自身だった。



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