たとえば。
もし俺が独りで泣いていたら。
何も言わずに、抱きしめてくれるか?
「ッ・・・」
体が熱い。
なんだか頭も痛い。
部屋に独り、取り残され。
体温計を見れば、『40.2』の数字。
完全に熱風邪である。
今日はジムを休みにしよう・・・と部下のトレーナーに伝えに、ぐっと体をおこ・・・
・・・そうとするが、自分の体のくせに言うことを聞かない。
声を出そうとしても、枯れていて掠れ声しか出てこない。
(ちくしょ・・・)
あがけない。
そのままベッドからどさっと落ちた、金髪の青年は。
携帯を握り締めて、気を失った。
「お疲れ様でーす」
「うーっす」
「お疲れ隊長ー」
投げかけられたいたわりの言葉に、にこっと笑って応対する褐色の髪の青年。
鉱山で石を掘り起こし、すっかり泥だらけになった服で顔の汗を拭う。
まだ若いが、この町のジムリーダーであり、そして鉱山組の隊長でもあった。
そんな青年が受けた、1本の電話。
「・・・?」
かけていた泥だらけの眼鏡をはずし、携帯を覗き込む。
よく知った年上の、友人の電話番号。
「・・・デンジ、さん?」
・・・何時間経っただろう。
腹が減ってふと目を覚ます。
まだ頭ががんがんと響く。
どうしようもなくだるい。
「・・・はぁ・・・」
ため息なのか、苦しさであえいだのか。
どちらともつかぬ声が、部屋にむなしく散る。
携帯を握り締めていたのは、はたして意識があったときか、無意識だったか。
よく知った友人の顔を思い出す。
明るい、褐色の髪の隙間から覗く。
優しい瞳。
「・・・ひょう・・・た」
掠れた声で、ふと呼べば。
ゆっくりと、手を伸ばせば。
ぎゅっと、強く、
心配顔で、手を握ってくれるかと、思って。
「デンジさん!!」
もうすっかり夜だった。
それなのに、名前を呼ばれた気がするのは俺の気のせいか。
「・・・ぁ?」
「僕です、ヒョウタです!今氷枕持ってきますから待っててください!!」
褐色の髪が、ぼんやりと目の前で揺れる。
何だ、来てくれたのか?
お前の町からここの町は、遠かっただろうに。
「ヒョウタ・・・」
「はい!?」
そんなに大声で言わなくても聞こえてるっつの。
意識朦朧で・・・体も動かないが。
「・・・ベッドに・・・俺を戻してくれっか・・・?」
テンパるのはいいが、そこは忘れないでくれなヒョウタ。
・・・なんとかベッドに戻り、デンジは氷枕に頭を預け天井を見つめた。
粥を持ってきたヒョウタはまだそわそわ俺の心配をしてくれている。
「・・・お腹空いてます?」
「・・・すげー・・・空いてる」
やっと焦点のあった目で見れば、にこっと笑う年下の友人。
体を起こすのを手伝ってもらって、れんげをもとうとすると・・・先に奪われてかゆを掬われた。
「・・・ふー・・・デンジさん、あーんしてください」
さすがにそこまでとは思わなかったデンジは目を丸くする。
あどけない笑顔でそんなことをされては、誰でも恥ずかしくなるというもので。
がつっと一気にれんげの粥をのどに通した。
「・・・お前さ」
「はい?」
「・・・女と間違われたりしねぇ?」
「な、に言ってるんですかっ」
びっくりした顔で頬をピンクにする友人。
「・・・女だったら・・・嫁にもらったのになー・・・お前のこと」
ぼそ、とつぶやいた声は。
ヒョウタの耳にばっちりと届いたらしい。
「何馬鹿なこと言ってるんですか」
「・・・本気だったんだぜ?」
「・・・や、・・・う、嘘です・・・」
「・・・なんで赤くなってんの」
「ッ・・・ぅ〜」
前から思ってた。
どうしてこんなちゃんとした奴が、俺の友人でいられるんだろうと。
町の人からの信用なんてもう・・・俺にはないだろう。
大停電を起こした張本人は俺だから。
なのにどうして、こいつはそばにいてくれるんだろう。
遠くの町から息を切らせて、やってきたんだろう。
こいつだって、本当は・・・・・
「・・・俺のことそんなに嫌い?」
「嫌いじゃないですよっ」
俺と一緒にいるの、
「・・・好き?」
『嫌い』なはずだろ?
「大好きです!」
・・・赤くなって力強く答えたヒョウタが、
なぜかぼやけて見えた。
「・・・デンジさん?」
俺の、一番欲しかった、言葉。
「俺も・・・ヒョウタ大好き」
頬に冷たいもんが流れてたが、気にしなかった。
そのまんま、いつもの調子で笑ったんだ。
「・・・大好き」
そうしたら、突然ぎゅっと抱きしめられた。
あったかくて、洗い立てのシャツのにおいがして。
早い鼓動が聞こえて。
なぜか心地よくて。
「・・・ヒョウタ」
温かさが。
『愛しさ』に変わる、瞬間。
fin.