あまりにも、美しすぎて・・・
「・・・さん、ナカジさん?大丈夫ですか?」
「・・・あ、あぁ・・・平気だ」
・・・思わず動揺してしまうほど。
「・・・ふふ、驚きました?」
・・・そんな程度で済んだら警察はいらんだろう。
とっくに通り越してただ見つめるばかりだ。
ミシェルはそばにあった数冊の本を宙に舞わせると、その中の分厚い1冊を手に取りふとナカジに渡す。
「・・・その本、英語を勉強するにはもってこいの1冊なんですよ」
「・・・・・・・・・ぅ・・・」
とりあえず受け取り、ぱらぱらとめくるとおもわず嫌そうな声をあげてしまう。
しかし長文という長文を網羅しているような本で、中身を見てみると細かく解説まで載っているようだった。
・・・だがやはり目にしてしまうとげんなりする。
英語が大嫌いなナカジにとっては苦痛この上ない。
「・・・安心してください、全部僕が教えて差し上げますから」
「・・・俺にコレの中身を全部記憶するほど容量はあまってない・・・」
暗記などできるか、こんな量・・・
「・・・何のために、この姿になったと思ってるんですか?」
「・・・は?」
瞬間。
額に、ミシェルの唇が触れた。
「・・・っな」
「・・・さ、終わりましたよ?」
・・・何事もなかったかのように平然と眼鏡をかけ、元の黒髪に戻ったミシェル。
・・・反面、知らない感触が額に落とされてびっくりする俺。
「・・・額じゃ不満でしたか?」
「ば・・・んなわけ・・・っ」
・・・そんなわけないだろう、と否定する唇を止めたのは
多分、俺の本心だったかもしれない。
「・・・っ・・・勉強、する」
「・・・そうですか」
にっこりと微笑むミシェルを見、俺は恥ずかしくなったのかくると背を向け置いてきた勉強道具を取りに行く。
・・・それにしてもさっきの・・・『天使』のようなあのミシェルの姿が忘れられない。
まるで正反対の場所に住んでいるように感じて・・・
遠く感じた。
けれど。
そばにいたいと
・・・なぜだか 『愛しい』と
思った。
「・・・俺・・・何考えてんだ・・・」
初めて抱く感情は
くすぐったくて 甘くて
机に手を付いて耳まで真っ赤に染めて、口元を押さえる俺。
『愛しい』?
・・・そんなもの、知るか・・・っ・・・
「ナカジ様」
「!?」
名前を呼ばれ、びくっと反射的に体をこわばらせたナカジを見ていたのは、黒猫の・・・紳士。
二本の足でしっかりと立っている。
「・・・ミシェル様がお呼びですよ」
「・・・・・あんた・・・誰だ?」
明らかに普通の猫ではない。
問えば、名を名乗った。
「わたくしはアルビレオ。・・・貴方を見つけたあの黒猫でございます」
鼻をひくひくさせ、目を細めてお辞儀をすると、
ポンと見知った黒猫の姿に変化したではないか。
そのままとてとてとミシェルの部屋へ歩いていくのを見て、
はっとしてナカジはかばんを持って後ろをついていった。
・・・ドアを開ければ、そこには白と茶色のギターを持ったミシェルがイスに座っていた。
アルビレオだと名乗った黒猫が肩に乗ると、にことミシェルはナカジに微笑んで弾き奏で始める。
「・・・ほら僕を見て その手で触れてみてよ・・・」
・・・透き通る声で、唄うミシェル。
するすると耳に入ってくる。
誰かに向けてのメッセージのような、歌詞が。
「・・・なんて・・・少しだけ聞いて欲しかったんです。
・・・でも勉強の邪魔になってしまいましたね・・・すみません」
聞きほれている途中、ふと音が途絶え苦笑しながらそんなことを言われる。
しかしナカジはもう少しだけ聞いていたい気分で。
「・・・最後まで歌え」
「え?」
「聞いててやる」
わざと強情っぱりにいう。
でもミシェルはうれしそうに、続きを歌い始めたのだった。
・・・・・しばらくしてミシェルはふとナカジを見る。
すると、ドアにもたれてずっと聞いていたはずのナカジは
とうに座り込み、眠りこけてしまっていた。
おそらく歌声が子守唄のように心地よかったのだろう。
勉強の疲れもそれに加わっているから余計に・・・。
「・・・しばらくお休みですね」
すぅすぅと寝息を立てて眠る受験生に、
お疲れ様、と
唇にキスを落とす。
・・・どうせ気づかれないのなら、いっそ。
「大好きですよ・・・ナカジさん」
・・・ミシェルの腕の中で、
ナカジが目を開けるまで・・・あと、数分。
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