「・・・そりゃぁ・・・お前を殴らねぇことにゃ気がすまねぇからな!!」
「・・・ッがはっ・・・」
・・・また今日も。
あざだらけで帰るのか。
・・・別に俺は、どうなったってよかったんだ。
死ぬ覚悟だってとっくにしていたんだ。
なのに。
・・・あのミシェルという男の顔が。
頭にちらついて、離れない。
―――どうして俺を助けた、ミシェル。
・・・死ぬに死ねなくなっただろうが。
「・・・いい加減にしろ!!」
「っ!?」
俺の握り締めたこぶしが、相手の左ほほにクリーンヒットした。
かなりのダメージを食らわせたのか、相当痛がっている。
「・・・んのヤロウ・・・!!」
それに切れた相手はすばやく起き上がって俺を再び殴りつけた。
・・・いつもより3倍は酷いんじゃなかろうか。
こんなに、殺られそうなほど暴力を振るわれているのに。
なぜか冷静に、そんなことを考えていた。
言うだけ言って、やるだけやって。
・・・あの野郎はいつもと変わらずに上機嫌で帰っていった。
「・・・ッげほ・・・けほっ・・・」
みぞおちを集中的にやられ、吐きそうなほど痛い。
口の中を切ったのか血の味が充満している。
・・・唇から滴る血を拭えば、赤黒い跡。
見慣れた、色。
―――大丈夫ですか?―――
・・・心配そうな、今にも泣き出しそうな顔。
鮮明に、脳裏に焼きついている。
・・・どうしてそんなに頼りたがる。
俺はいつも一人だっただろうが。
いつからそんなに弱くなった
甘えるようになった
・・・馬鹿か 俺は
助けてくれるとでも 思っていたのか
「・・・ッ・・・」
力の入らない脚に、無理やり体重を掛けて。
壁にもたれながら、歩き出す。
・・・もう、家に帰ろう。
また会って
話したかった けれど
・・・そういえば・・・と、ナカジはふと思い出す。
ミシェルが住んでいる家も知らなかったなと。
助けてもらったはずなのに、何一つ・・・そこから帰った道さえ覚えてはいなかった。
・・・まぁ、もう会うことはないだろうが。
傷が治って数日経ったある日、ナカジは図書館に足を運んだ。
勉強して、高校受験に備えようとようやく思い始めたからである。
ここなら静かに勉強できるし・・・何より資料がたくさんある。
最後の悪あがきだ。
・・・がりがりと問題をひたすら解いてゆく。
しばらくして目が疲れて来、軽くため息をつきながら周りを見渡してみれば・・・
結構な数の受験生らしき奴らが必死になって最後の追い込みをしていた。
そんなに目が血走るほどやらなくてもよかろうが。
あきれるほど必死なんだな・・・。
・・・ふとペンが止まる。
ある問題がどうしても解けないのだ。
ナカジは英語が大の苦手であった。
なんだこれはと悪態をつきながら英語の長文とにらめっこをしていたが、解けないのである。
しかし何か悔しい。
・・・仕方がないので、ナカジはふいと席を立った。
・・・大きな本棚を見上げながら探す。
適当に本を取ってページをめくれば、小さな細かい字で英文が書かれていたり、何か物語が書いてあったり・・・。
ものすごい本の量だが、資料はしっかり見つけやすいように整理されていて。
いったい誰がこんなに本を集めてきたんだろうか。
改めて思う。
「ッ危ないです!!」
「・・・え?・・・いてッ」
・・・突然上から声がしたと思えば、1冊の本が落ちてきたではないか。
しかもその角が、頭のつむじに刺さったかと思うほど勢いよく音を立てて当たったのだ。
「〜〜〜ッ・・・!!」
「ご、ごごごめんなさい!!すみませんでした!!・・・あ、あのあの、こ、氷で冷やしましょうこっちですー!!」
相当焦っているのか、図書館だということも忘れて大声を張り上げナカジの腕を引っ張っていく目の前の男。
痛みに顔をしかめながら、その男をよく見てみれば・・・どこか見覚えのある姿。
声にも覚えがある。
あの少し高めの・・・澄んだ声。
・・・何だ。
もう会えないと思っていたのに。
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