―――・・・おや、こんな真夜中にお客さんですか?
・・・まぁ、誰だかは大体予想はつきますがね。
今日も暇だったんでしょうか?
あの、紅い瞳を持った吸血鬼さんは。
・・・コンコン、と館のドアをノックする。
するとひとりでに、ぎぎぃと音を立てながら開いた。
「・・・入るぞ」
そう一言告げると中に入り、真っ赤な羽を背中に隠した。
歩くたびに靴音がやけに響く。
ひんやりした空気が、体を包む。
その広い館の中には、見慣れた絵画や人形などが飾られていた。
「・・・・・いないのか?ジズ」
・・・何も返答が返ってこない。
なぜだ。
こんな夜中にどこへ行くというのだ。
・・・まぁ自分のことは言えたものじゃないが。
突っ立っていても仕方がないので、近くにあったいすに座った。
・・・が、妙に落ち着かなかった。
なんとなく寂しくなり、
「・・・おい、ジズ!いるなら返事ぐらいしたらどうだ」
と、思わず立ち上がって声を張り上げた。
・・・・・すると。
『・・・・・くすくす・・・』
小さく笑う声が聞こえるではないか。
―――・・・私をからかったな。
寂しさが一転、腹ただしい気分でもう一度名前を呼んだ。
「ジズ!お前というやつはっ・・・」
『すみません、ユーリさんがあまりに可愛らしかったので・・・お許しください』
ジズは素直に謝るが、まだからかわれているような口調だ。
半ば少し呆れながら、その声の主に言う。
「・・・もういい。許すから早く出て来い」
『はい。仰せのままに』
そういうと、ジズはふっと姿を現した。
・・・が、ユーリには見えていなかった。
自分の後ろに現れたのだから。
「・・・どこだ?」
「えぇ・・・貴方の真後ろにいますが」
「・・・あっ・・・」
突然背後から腰とあごに手を掛けられ、つい艶っぽい声を上げてしまう。
ジズは面白くなり、わざと涼しげな低い声で囁く。
「・・・あれ、感じちゃいました?」
「・・・ッそんなわけないだろう」
ユーリは恥ずかしくなって腕を振り解こうとしたが、それは適わなかった。
対格差がありすぎる。
なにしろユーリはジズより背が低く、肩幅だって狭いほうなのだ。
勝てるはずがない。
「・・・どうしました?暴れないでくださいよ」
「その腕を離せ。・・・もう私は帰る」
「あれ?では今日は何の用があってココに?」
ぐっとユーリのあごを上向けさせ、上から目を覗き込むようにして笑顔で問う。
ユーリはそれが悔しいのか、眉間にしわを寄せ答えた。
「・・・別に。暇だったから来たまでだ」
「・・・そうなんですか?こんな真夜中に?」
「・・・・・」
そう聞いたとたん目線をはずしたユーリを、ジズはじっと見つめる。
「・・・私に用はなかったんですか?」
「・・・ない」
「なら帰ってください。私もやることはあるんですから」
ジズはふっとユーリの体を離す。
こんな風にジズが突き放したのは初めてである。
ユーリは戸惑う。・・・だがすぐに背を向け、外に通じるドアに手を掛けた。
「・・・・・」
「どうしたんですか?帰るのでしょう?」
「・・・・・ジズ」
「なんです?」
―――・・・どうして。引き止めてくれない。
「・・・・・なんでも、ない」
「そうですか。では、お気をつけて」
「・・・あぁ」
ジズは分かっていた。
ユーリが悲しい顔をしていた事。
ドアノブを握り締めて立ち尽くすユーリ。
それをただ見届けるジズ。
背中が冷たい。
さっきまでは、暖かかったのに。
「・・・ジズ」
「なんでしょうか?」
「・・・私はもう・・・ココにはこない」
「そうですか・・・分かりました」
―――引き止めて。
「・・・お前とももう・・・会わない」
「・・・それは嫌です」
「じゃぁどうして私を引き止めないんだ!!」
ユーリはジズのほうを振り向き突然大声で怒鳴った。
目から涙がぼたぼたと零れ落ちる。
ずっと堪えていたのだろう。
突き放されたその時から。
「お前はいつもそうだ!何に対しても執着がなくて!!
離れていくものは簡単に手放していく!!・・・なんで引きとめようとしないんだ!!」
「・・・やっと、はっきり言ってくれましたね」
「・・・は・・・?」
ジズは満面の笑みを顔に浮かべて、ユーリの目の前に立った。
上からユーリを見下ろす。
見上げた赤い瞳が潤む。
白い頬に伝う涙を、エメラルド色の指がぬぐった。
「・・・・・ユーリさん・・・貴方がいけないんですよ?」
「私をここまで追い詰めておいて何を言う」
ユーリに睨まれてジズはきょとんとしたが、すぐまた元の笑顔を作った。
頭をなでながら言う。
「いつも不機嫌な顔で・・・ワタシには本当に思っていることを話してくださらないでしょう?」
「・・・だから?」
「ですから・・・ユーリさんには申し訳ないと思いつつも、辛く当たってみたんです」
ユーリは呆れた。
こんなにジズは子供だっただろうか。
急に泣いているのが恥ずかしくなり、急いで目元をごしごしと拭おうとする。
が、その前にジズがユーリの細い手首をはしっとつかんだ。
「・・・やめてください。ワタシが拭きますから」
「いい。そんな事自分で出来る」
「それはそうですけど・・・アイドルなんですから、
そんなにごしごしやったら目元腫れて人前出られなくなりますよ?」
「・・・それでも構わん」
涙を綺麗に拭われて、つかまれていた手首も離された。
・・・・・はずだったのだが。
「・・・腰に腕があるのは気のせいか?」
「いいえ?全くもってそのとおりですが?」
にっこりと顔の前で微笑むジズを見る。
右半分仮面で隠された、エメラルド色の肌の紳士。
とても人形になど見えない。もちろん透けてもいなかった。
・・・突然ユーリが仮面に触れる。
「はずせ」
そう一言言い放つ。
もちろん、YESと簡単には言ってくれなくて。
「うーん・・・ユーリさんのお願いでも、それだけは聞き入れることは出来ません」
「・・・嫌だ、はずせ」
「どうしてまた・・・」
「お前の素顔が見たい」
・・・困った。
ここまで来ると、さすがのジズもユーリには反抗できなかった。
・・・まぁ正直言えば、反抗したらこの館に二度と顔も見せなくなりそうで怖かったのだ。
「・・・・・分かりました。・・・でも一瞬だけですよ?」
「ずっとはずしていろ」
・・・これだ。
仕方ないので、ジズは最終手段をだした。
「・・・あんまり無理言うと泣かせちゃいますよ?」
「・・・っ!!」
そのセリフを聞き、びくっと体を縮込ませたユーリ。
くすくすと小さく笑いながら、ジズは仮面をはずした。
そのとたん、ユーリの目の前がエメラルド色1色になった。
「・・・ッん・・・っ」
口内をまさぐられる。
器用なジズの舌がユーリの舌を絡めとり、いやらしい音をたてた。
「ふ・・・んぅっ・・・」
必死にあがらおうとするも、後ろはさっき出て行こうとしたドアで塞がれ、前はジズで塞がれ、
体勢を変えようにも腰に腕があり動けない。
・・・まぁつまりはされるがままの状態で。
そのうちジズの唇が離れ、そのままユーリの白い首筋へと移動していく。
あまりの快感に身を震わせて耐えるユーリ。
それをわざとあおるジズ。
「やぁ・・・っ」
「嫌じゃ・・・ないでしょう?ちゃんと反応してるんですから・・・」
「やだっ・・・いや・・・っ・・・あぁッ」
もう仮面をはずしていてもいなくても関係なくなっていた。
ユーリの胸板に顔をうずめているのだから。
「・・・ゃ」
「・・・ふふ、もう叫ぶ気力もないんですか?まだまだ始まったばかりですよ?」
そう耳元で涼しげにささやかれて、またもや感じてしまう。
・・・さっきの不安はどこへ行ったのやら。
跡形もなく消えていた。
そうこう考えているうちに、ジズの部屋のベッドにつれていかれ、仰向けに投げ出された。
・・・スプリングがきしむ。
「そろそろココも・・・濡れてきたのでは?」
上から覆いかぶさってきたジズに、ユーリ自身を掴まれた。
その瞬間、ユーリの背中がしなる。
「・・・ッぁう!」
シーツを強く握る。
ほんの、露ほどの抵抗。
「もっと・・・声を」
「・・・あっ・・・ん・・・ッ」
耐え切れなくなり、ジズの首に腕を回す。
水気を含む音が部屋に響き渡る。
何度も上下されて、ユーリのモノはだんだんと張り詰めていった。
「・・・っは、あぁ・・・ッあ」
ひっきりなしに唇から喘ぎ声が漏れる。
先端が濡れてきた頃、ジズはおもむろにそれを口にくわえた。
「ッいやぁ!・・・何・・・す・・・」
「・・・ん・・・おとなしくしててくださいよ・・・気持ちよくさせてあげますから」
「やめッ・・・ジズ・・・!!」
・・・こんなに綺麗な顔で。
・・・こんなに綺麗な声で。
やめてと懇願されても。
果たして誰が、止められるというのだろうか?
―――・・・誘ってる風にしか、見えないんですよ。
「・・・ジ・・・ズ・・・ッ」
どちらのものともつかない唾液が、ユーリのあごまで伝っている。
ジズの口からユーリ自身の蜜が溢れ、ユーリ同様濡れていた。
「・・・ぃや・・・はっ・・・ッあぁぁ!!!」
背中をのけぞらせながら、ユーリはジズの口内に精液を放つ。
それをゆっくりと嚥下し、唇を拭いながら紳士は言った。
「気持ちよかったでしょう?」
ふふ、と目を細めて笑いながら、仮面を付け直した。
ユーリにシーツを巻きつけ、ベッドに座ったジズの膝に背を向けるようにして座らせる。
背中から包み込むように、ぎゅっと抱きしめる。
「・・・・・」
「・・・あれ、気持ちよくなかったですか?あんなに乱れてたのに・・・」
そういったとたん、ユーリはまだ冷め切っていない真っ赤な顔をさらに真っ赤にした。
「ばっ・・・馬鹿!私は乱れてなど・・・!!」
「そうですか?シーツをこんなにぐしゃぐしゃにしたのに?」
「関係ない」
「こんなに・・・濡らしたのに?」
「・・・ッ!うるさ」
「あれ、反抗していいんですか?もっとひどいことします?」
「・・・・・いやだ」
もうあきらめたのか、ユーリはジズの胸に体を預けた。
汗ばんだ額に張り付く髪の毛を、優しく梳き上げてやる。
いつになく素直なユーリを抱き寄せながら、さっきの駄々をこねた物の件を思い出して問う。
「そういえば・・・ユーリさん。ワタシの仮面の下、ちゃんとご覧になりました?」
「・・・・・。・・・もう一回はずせ」
それを聞いてジズは思わず吹き出した。
「・・・気持ちよすぎて、見られなかったんですか?」
「・・・うるさい・・・馬鹿」
「わざわざはずして差し上げたのに・・・。
・・・まぁ、貴方の本音が聞けただけで、ワタシは満足なんですけどね」
「・・・・・」
腕の中で、眉間にしわを寄せて難しい顔を作るユーリ。
ジズは少し苦笑しながら、その愛しい吸血鬼をさらにきつく抱きしめた。
「さっきは・・・本当にすみませんでした」
「・・・」
「突き放したりして・・・ひどい事をしてしまいましたね」
「・・・わかっているならいい」
「・・・あれ、許していただけるんですか?」
「あぁ」
「・・・ありがとうございます」
後ろから、ユーリの右頬にジズの左頬が触れた。
少しの沈黙の後、ユーリが口を開いた。
「・・・私が素直ではなかったのだ」
「・・・?」
「私は・・・。・・・・・私は、お前に・・・本当は用があった」
「・・・嘘、だったんですか。さっきの言葉は」
「・・・悪い」
「いえ・・・いいんですよ。今正直に言ってくださったんですし」
―――・・・こんな風に、素直な貴方も見られましたしね。
「で・・・。何の用があったんですか?」
「・・・・・」
「・・・?あの」
「寂しかった」
「・・・え」
「なんだその反応は」
きっとバツが悪そうにジズをにらむ。
確かユーリの家には、狼男と透明人間が一緒に住んでいたはずだが。
「・・・また嘘を言った」
「え、あの・・・ユーリさん?」
「お前に会いたかった・・・それだけだ!悪いか!」
少々ユーリの発言に戸惑ったが、最後の本音を聞いて、その戸惑いも一瞬にして消え去った。
ジズは、最高の微笑みを浮かべて囁いた。
「・・・いいえ。すごく嬉しいですよ・・・」
・・・こんなにいじっぱりな貴方の、本当の気持ちを知れたのですから。
fin.