この世界には
いろんな奴がはびこっているが
今でも思う
どうしてこいつと出会えたんだろう、と。
・・・秋頃だった。
いつもどおりの学校の帰り道を、今日はなぜかゆっくりと歩いていた。
もうすぐ俺は大学受験だ。
家に帰れば・・・勉強というものにひたすら打ち込まねばならない。
そんなのはもう飽き飽きしていて。
・・・仕方がないのは分かってはいたが、やはりどうしても足取りが重かった。
・・・久々に、行ってみようか。
あの妙に落ち着く、俺の気に入りの場所へ。
・・・キィ、と大きなドアをあける。
「・・・おい・・・居るか?」
中に入りながら、ナカジはある人物を探して声をかけてみる。
しかししばらく待ってみても返事はなく。
(忙しいのか・・・?)
・・・何かごたごたやっているのかと思いつつ、待ちがてらふとそばにあった大きな本棚を見上げた。
そう。 ナカジが足を運んだのは、いろいろな本がずらりと並ぶ・・・図書館であった。
いかにも古そうなところだが、意外にきれいで。
きちんと上のほうまで整理整頓されていて、ほこりひとつかぶっていない。
・・・通いつめた、この場所。
高校受験のときはよくここに来て・・・参考書なんてものを探したな。
それからもう2年ほど来ていない。
懐かしむように、大きな本棚の間を歩いてゆく。
こんなに種類があったのか、といまさら思う。
・・・ふらふらと歩いていれば、脚立が本棚の前に立っていた。
誰かいるのか、と上を見上げた瞬間だった。
「・・・あ・・・わぁぁ!!」
「ッ!!」
・・・どさっ。
「・・・・・おい・・・」
・・・本が手違いで降ってくるなら避ければいい話だった。
だが今のは避けなくて正解である。
なにせ、背の高い細身の・・・人間が降ってきたのだから。
「すすすすみませんっ!!おおおお怪我はないですか!? 早く手当てをっ」
「・・・落ち着け・・・わかったから落ち着けミシェル・・・」
「・・・へ?」
素っ頓狂な声の主。
眼鏡がずれたまま、ナカジの腕の中にすっぽりと納まって姫抱きされたおとぼけ人間。
・・・まさしくナカジが探していた、ミシェルという名の・・・『天使』だった。
「・・・すみませんでした・・・」
「俺は平気だ・・・それより怪我がないだけよかったと思え・・・馬鹿」
「はい・・・ぐす」
・・・姫抱きしたまま、図書館の中にあるミシェルの部屋に入る。
ベッドに降ろしてやれば、そいつは涙目で謝ってきた。
本気で気にしているのか、ごめんなさいと何度も頭を下げてくるが・・・別に構わん、とそのままそばにあったイスに座った。
・・・少し落ち着いて、ミシェルは突然の訪問客・・・もとい命の恩人におもてなしをしていないことに気づく。
すっとベッドから立ち上がると、にっこりと微笑んで
「ちょっと待っててくださいね」
と言い残して小さなキッチンに姿を消した。
・・・それを見送って、ふと暇になる。
部屋を何気なく見渡せば、小さな観葉植物がずらりと・・・窓辺に置かれていた。
本を読んで目が疲れたときにちょうどいいのかもしれない。
昔とそう変わらない。
淡い緑色で統一された、シンプルな部屋だった。
・・・暇を持て余すのもどうかと思い、背中にしょっていたギターを取り出す。
適当に弾き鳴らして、音を生み出していく。
・・・しばらくしてミシェルが戻ってきた。
「どうぞ、ナカジさん」
盆の上から綺麗なカップを笑顔で差し出される。
持っていたギターを脇にそっと置き、ナカジは素直に受け取った。
入っていたのはアップルティー。
中を覗けば、リンゴのいい香りがした。
寒くなってきた今には、ちょうどいい温かさ。
ずず、とすすって一息。
「蜂蜜入れておきましたよ」
「・・・あぁ」
ナカジの気に入っている蜂蜜入りの紅茶を、ミシェルはよく作ってくれる。
こいつの紅茶は格別に美味い、と勝手にそんなことを考えていた。
・・・すると、横に置いたギターを見たミシェルが話しかけてくる。
「そのギター・・・まだ持っててくれてるんですね」
「・・・当たり前だろう・・・」
・・・元はミシェルの持ち物であった、白と茶色のギター。
懐かしげに、うれしそうに微笑むのをナカジはふと見やる。
「・・・何年ぶりでしょうね、こうして会うのって」
気づいたように、左右色の違った双眸でこちらを見返すミシェル。
同じようにすすりながら答える。
「・・・さぁな・・・」
答えるのがめんどくさげに、目線をはずす。
そんな態度をとっても、ミシェルは笑って許すのだ。
さすがに2年ほどここに来ていなかったから忘れているだろうと思いきや・・・
あの通いつめていたときと同じように接してくれるとは。
「・・・お前も相変わらずだな」
飲み干してぼそ、とそういうと
「・・・僕はずっと相変わらずですよ、きっと」
とにこりと笑って茶をすすった。
・・・本当に時が経つのは早い。
いずれ俺もすぐに大人になるんだろう。
だがもし大人になったとて、俺はこいつみたいにずっと『相変わらず』でありたいと思うのだ。
俺は俺で、このままで。
・・・今だから、こんなことが言える。
こいつが俺を、認めてくれたから。
受け入れてくれたから。
だから何があっても、こいつだけは信じられる。
昔は・・・人なんて皆、信じられなかったけれど。
NEXT→2.