「・・・結局・・・裏切られたのは俺だったのか」

ひとつの小さな墓の前で、ぼそっとつぶやいたジャック。
あの主の件からすでに、早くも2ヶ月が経とうとしていた。

「・・・ま、今更そんなこと考えたって仕方ねェけどな」
「それはそうだけど・・・」

傷付けられたというのに、呑気にそんな事を言うKK。
ジャックは振り返って困り顔で見上げる。
すっかり元気を取り戻したKKはジャックに聞いてみた。

「しっかしよォ・・・何でオマエ、その裏切られた主の墓なんて作ったんだよ?」

すると、ジャックははっきりとこういった。

「俺を造ってくれた・・・人だから」
「・・・・・ほぉ」
「俺がお前のそばに居られるのは、主が俺の事を造ってくれたから」


・・・それなのに、一瞬でも主を殺そうと思うなんて。

ジャックは未だ、この複雑な感情に慣れなかった。

「・・・裏切ったのは・・・俺だったのかもな」

悲しげに顔に影を落とす。
それを見、KKはジャックの頭にぽん、と置き。

「その台詞は多分、お前だけが使うモンじゃねェよ」

と、そんな言葉を吐いた。

「オレだって・・・お前を造ってくれた主を殺した。でもその主はお前を殺そうとした。・・・おあいこなんじゃねェの?皆よ」
「主は居なくなったけどな」
「・・・そこはまぁ、オレらの裏切りが主より軽かっただけの話さ」
「・・・」


・・・それきり、KKとジャックは口をつぐんだ。


帰り際、そっとジャックは墓の前にヘッドフォンを置いた。
今まで指令を聞いていたモノ・・・それを置いていくということは。

「・・・全部、忘れたい」
「それで、いいのか」
「いけないってことは・・・分かってるけど」


―――・・・全部ここに、置いていく。

そんなことをしても、逃げにしかならないけれど。
無駄だってコトは、分かっているけど。
主にだって・・・悪いとは、思ってるけど。

「・・・もう俺は・・・戦闘兵器じゃないから」

主の、操り人形じゃないから。

・・・ジャックは墓の前で、静かに目を閉じた。
手を合わせて、今は亡き主に・・・心で思いをぶつける。



「・・・さようなら、主」



もう俺は・・・人は殺さない。
何度も裏切って、ごめんなさい、主。



ジャックは目を開けると、反対側に歩いていったKKの後を追った。

・・・ひとつぽつんと取り残された墓の隣に、真っ赤な彼岸花が一輪揺れていた。







「・・・・・」
「・・・・・」

KKの家の中。
墓から帰るやいなや、ずっと黙りこくったままの二人。
かれこれもう10分はそのままだった。

・・・当然といえば当然である。
今まで引きずってきたモノを突然忘れようなんて、そんなことは容易ではないから。
背中合わせで、あさっての方向を向いていた。

・・・しばらくすると、ジャックの後ろでガチャッと音がした。
冷蔵庫を開けたらしい。
そして、首筋に何かひやっとした硬いものが触れる。

「ッんぁっ」
「っはは、面白ェ声」
「・・・何のつもりだ」
「いーや?なんでも?・・・ぅら飲めや」

ひょいと手渡された缶。
ジャックは少しむっとしながら、ヤケになってガシャガシャと缶を振った。
そしてそれをKKに向ける。



ぶしゅっ。

・・・ぼたぼた。



「っな・・・」
「ちと学習能力が良すぎたな・・・」

両者とも、手に持っていたのは炭酸飲料であった。
攻撃を仕掛けたのはジャックのほうだったが、KKも同じ事を考えていたらしい。

「ぜってー自滅するって踏んだんだが・・・覚えてやがった」
「そこまで俺は馬鹿じゃないぞ」
「っはは、そうかそうか」

顔がびしょびしょになったにもかかわらず、笑ってぽんぽんとジャックの頭に手をやった。
そしてKKは洗濯してあった青いタオルを取り、自分の顔を拭く。
ジャックはいつものように拭いてくれるのかと思っていたが、今日は違った。

「顔出せジャック」
「おぅ・・・ッぅわ」

頭の後ろを抑えられ、ぐっと顔を前に出したとたん、KKに頬をぺろと舐められたのだ。

「っば・・・か、やめろッ」

押し返そうとするが、いつの間にか上に乗っかられて動けなくなっていた。

「濡れたまんまでいたいのか?」
「んなことしてたら余計濡れるだろ!!」
「お、じゃぁこっちも濡れてきたのかオイ」
「触んな馬鹿ッ・・・ぁっ」

首筋と自分自身を攻められて思わず声を上げてしまうジャック。
にやっとKKが笑うのが見え、猛烈に恥ずかしくなりジャックはKKの肩をぎゅっとつねった。

「いっ」
「俺の上からどけっ!!」
「・・・やーなこった」
「なっ・・・んぅッ」

深い角度で唇を奪われてしまう。
最初は抵抗していたが、舌が絡んでいくうちだんだん力が入らなくなってくる。
ジャックは諦めて、KKに身を任せてしまった。

ふと、目を閉じる。


―――・・・憧れの人を、しっかりと感じながら。

fin.