転がった死体を呆れ顔で見つめながら、KKはジャックの腕を担ぎなおす。
「・・・・・」
しかし当の本人は黙ったままで。
「・・・まぁ、話したくねェならいいさ。ほら中入れ」
「・・・あぁ」
KKはドアの鍵を開けると、腕をベッドの上にほうり投げた。
―――・・・話さなきゃいけないコトなのに。
そうは思うものの、ジャックは言い出せずにいた。
「・・・おーい、トリップしてんじゃねぇぞー。腕くっつけっから早く来い」
「ッあ、おう」
呼ばれてはっと顔を上げるジャック。
焼け焦げた死体は放っておく事にし、中へと入っていった。
かすかに、電気の流れる音。
「痛ッ」
「あともう少しだからガマンしてろよ」
そういわれ、ぐっと痛さを耐える。
「精密すぎやしねェかい?切れた線がかなりあるぞ」
困りながらも1本ずつくっつけるKK。
器用な指先がきっちりと繋げて、手早く次へ移っていく。
・・・ようやくぜんぶ繋ぎ終わり、KKはジャックの右腕を持ち上げ、
「歯ァくいしばれ」
そういった直後に思い切り接着部分に外れた部分をぶつけた。
「・・・ッぐぁっ!!」
「っし、終わったぜ。・・・動くか腕?」
ジャックは痛みに顔をしかめながらも、右手を握ったり開いたりする。
最後にぐるぐると腕を回し、ちゃんと動くか確認してから腕を下ろす。
「ん・・・大丈夫だ」
「・・・ったく、もうんな事すんじゃねェぞ」
KKはジャックを見、少し怒りながら言う。
申し訳なさそうにジャックは肩を下げる。
「泣かせて悪い」
その言葉を聞きKKの表情が変わった。
「な・・・オレは泣いて・・・ッ」
「俺が死ぬ直前に泣いてたろ?」
完全に素になっているジャックの言動に困り果てた。
目をぱちくりさせて、ずいとKKの目の前に迫ってくる。
「〜〜〜〜・・・わーった。認めるよ」
まいったとでも言うように顔に手を当ててため息をつく。
ふっとジャックは微笑んだ。
「そんなにオレが泣いたのがおかしいか」
指の隙間から覗くKKの目を見返して、ジャックは首を横に振る。
「いや・・・嬉しい」
まだ・・・必要とされてるんだよな?
「嬉し・・・い?」
KKはその感情がどうして出てくるのか分からなかった。
首をかしげるKKにジャックは言う。
「誰も、俺が傷ついたって泣いてなんかくれなかったから」
「・・・!」
それは、戦闘兵器だからこその感情であった。
傷ついても、兵器だから。
機械だから、放って置かれていた。
どうしたって、人形のような扱いだった。
「・・・そうか」
KKはあぐらをかき、口をにぃっと広げて歯を見せ笑いながら、ジャックの顔に自分の顔を近づけた。
「安心しな。お前は今はオレのパートナーだろ?心配ならいくらだってしてやるよ」
もう泣きはしねェけどなと付け加えて、わしゃわしゃとジャックの頭をかき撫でる。
「・・・ん」
笑顔で素直に応じるジャック。
・・・そのつかの間の時間が、今終わろうとしていた。
ガタンッ!!
「「ッ!?」」
突然大きな物音がした。
何事かと思いKKがドアを開けた瞬間・・・、KKの胸から血が吹き出していた。
「・・・あ゛・・・ぐッ・・・」
「KK!!」
ジャックがそう叫ぶと同時、KKが後ろに倒れる。
それを受け止めた両腕は、赤く血で染まった。
じわじわと赤い色が服に滲んでゆく。
「・・・お前が殺す事を拒んだからだ」
「・・・!!」
聞き覚えのある、低い男の声。
そのシルエットは間違いなく、ジャックを造った張本人であった。
「お前のそばにわざわざ居させたというのに・・・裏切るのか、この主を・・・?」
・・・一瞬、悪寒が走る。
やはり自分の勘は当たっていたのだ。
確実にKKを仕留める為に、俺達は組まされていたのだ・・・と。
「起きたか・・・『破壊屋』」
「・・・・・ア・・・ァ゛・・・」
むくりと巨体が主の後ろから姿を現す。
その目には生気が全く消えうせていた。
完全に回路は焼き切れたはずなのに、起き上がってうなった破壊屋。
「人(機械)は壊すが自分は壊れない・・・優秀だな」
にやりと皮肉そうに笑みを作る主。
ジャックはKKをその場に寝かせ、ゆっくりと立ち上がる。
そして、ぐっとガスマスクを顔に付け叫んだ。
「・・・ッ死ねぇェェッ!!!」
ジャックは主に飛び掛った。
しかしその主の盾になった破壊屋は、その爪を太い腕で喰い止めた。
血なんぞは当たり前のように出て来はしない。
鋼の肌に爪が刺さる。
「主カラ・・・離レロ・・・」
「ッあ゛あ゛ぁッ!!」
体に破壊屋の放つ電撃が駆け巡る。
だがジャックは耐え、苦しみながらも炎を吐き出した。
「ガァァッ!!」
回路をまたもやショートさせ、突き刺さった爪をさらに喰い込ませて腕を落とした。
そしてそのまま後ろに回りこみ、ジャックは腹を貫く。
・・・ガシャァン!!
冷たい、金属の崩れる音が響いた。
「・・・うおぉおぁあ゛あ゛ぁッ!!」
それとほぼ同時、ジャックは主のふところへと走りこむ。
・・・組ませた本当の目的を知った以上、なんのためらいもなかった。
ただただ悔しかった。
やはり自分は、あやつり人形でしかなかったのだと知って。
「・・・私が、憎いか?ジャック」
「!!」
―――当たり前だ。
・・・そう、脳裏にはよぎった。
しかし体はなぜか動かなくなっていた。
・・・ためらいなんて、さっきまで一欠片も無かったはずなのに。
「どうしてそんなことを聞く」
身構えたままそう聞くと、主はにこりと微笑んだ。
「私の存在価値などもう・・・無いからだよ」
「・・・?」
かつかつ、とジャックのそばへ歩み寄ってきた主は、
ジャックの大きな爪を自分の頭へと持って行き、こう言った。
「・・・分からなくていい。ただお前は・・・私を殺せばいいんだ。
さぁ、振り下ろせ、ジャック。この目の前にいる憎い主を殺せ」
「ッ・・・」
どうして。
どうして殺せなんて言う。
どうして今更『憎いか』なんて問う。
どうして俺は手を動かそうとした?
・・・自分の気持ちが理解できない。
―――どうしてこんなに・・・苦しい?
「なんて・・・な」
「え・・・?」
カチ。
目の前にあるのは、銃口。
「主・・・?」
ぱぁんッ!!
「・・・な・・・」
ドサァッ。
「・・・・・え?」
・・・その場に倒れたのは、主だった。
脳天をぶち抜かれている。
・・・やったのは俺じゃない。
俺は銃なんて持ち合わせちゃいない。
・・・だとしたら・・・。
「K・・・K・・・!?」
「何、ぼさっとしてんだ・・・馬鹿が・・・ッ」
胸を抑えながら、右手にはライフルが握られていた。
「生きてた・・・のか?」
「ったりめェだ・・・こんなもんかすり傷だ・・・ッつつ・・・」
「痛いんじゃねェか!!無理して起きるな!!」
ぎゅっと胸の辺りに抱きついて寝かせる。
そしてKKの上着の前を開くと、ジャックは傷口をぺろぺろと舐め始めた。
「・・・ちょ・・・お前何をっ・・・」
慌てふためいてKKが押し戻そうとする、と。
「・・・壊すことしか知らないから」
「・・・え?」
「傷の治し方なんて知らないから・・・」
・・・ジャックは、血の涙を流していた。
さっき主から飛び散った血が顔に付着したのだろう。
それがちょうど、涙のように流れていた。
「ジャック・・・」
「・・・ん、・・・ぅ」
必死に、血を舐めるジャック。
「もうやめろ・・・もう、いいから」
ぐっと、今度は力強く押し戻す。
それと同時、起き上がりながらKKはジャックを抱きしめる。
「死なねーから、安心しろ」
頭をゆっくり撫でながら、耳元で囁く。
ジャックはぎゅっと上着の肩口を握り締め、泣き声をあげた。
まるで胸に溜まっていたものを、全部吐き出すかのように。
KKはそんなジャックを・・・泣きやむまでずっと、強く抱きしめていた。
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