・・・今日もまた・・・部屋に閉じこもっているのか?

あいつは。

・・・苦しいと、心の中で咆哮しながら・・・。






ある、満月の夜。

ぽっかりと大きな丸い月が、窓の外に浮かんでいた。
それを見、綺麗な銀髪をかきあげながらユーリはスマイルに問うた。

「・・・アッシュはどうした」

するとその問いにヒヒ、と笑いながら答える。

「また今日も・・・自分の部屋に独りで閉じこもってるヨ」

・・・そうなのだ。
アッシュは満月の夜を迎えると、とたんに部屋から出てこなくなってしまうのである。
しかし夜ご飯がちゃんと準備されているあたりがなんともアッシュらしい。
スマイルは作り置きされていた好物のカレーを口にほおばる。

「・・・心配だけどさ・・・部屋に行くとほっといてくれって追い返されちゃうんだよねェ・・・」

低く押し殺した・・・何かを我慢しているような声で、そんなことを言われるのだ、と。
ユーリは眉間にしわを寄せる。

・・・しばらくして、ユーリがふと口を開いた。

「・・・ならば・・・押さえ込んでいるものを解放させてはどうだろうか?」






カツ、カツ、カツ。
・・・だんだん大きくなる靴音。
ぴたと、閉ざされている部屋の前で止まる。

「・・・アッシュ、私だ」
「入らねぇでくれッス」

間髪いれずに、そう返事が中から返ってくる。
しかしそうもいかない。

「開けてくれ」
「・・・嫌ッス」
「どうしてだ」
「どうしてもッス」

どんな問いを掛けてみても、結局開けてはくれなくて。
ユーリは仕方なく、その場を静かに去る。
しかし、諦めて、ではない。
もうひとつ、ユーリならば出来る手段があった。

・・・ふっと、窓際にいたアッシュの頭の上が暗くなる。
何かと思い見上げれば、満月の光を背に翼を羽ばたかせたユーリがいたのだ。
城のかなり高い位置にこの部屋はあるのだが、ユーリなら飛んで外から入ることも可能なのである。

彼はとん、と小さな音を立ててアッシュの目の前に降り立った。
何かをこらえているような顔をアッシュは背けると、ユーリはぐいとあごをつかみ引き戻す。

「・・・何を・・・我慢している」
「・・・・・」

何も答えず、アッシュは自分より小さなユーリの手を思い切りつかみ引き剥がす。
しかしユーリは微動だにしなかった。

「・・・狼の本能とやらが出てくるのを抑えているのか」
「・・・・・ッ」

満月に背を向けて、体育座りで縮こまるアッシュ。
心なしか少しだけ目の赤色に灰色が混じっているような。

「・・・・・迷惑・・・掛けたくねぇッス」

ようやく一言。
そういいながらもまだユーリの手は掴まれたままである。

「・・・アッシュ」
「・・・はいッス」
「もし今・・・私を襲えと言ったならば・・・お前はどうする?」

びくん、とアッシュは体で反応した。
ユーリはそれを見、片手で首元の赤いタイをしゅるりとはずす。
はだけた白い肌は満月の光でさらに白く輝いた。
そんな格好でユーリは、アッシュにため息をつきながら言った。

「・・・今のままでいられたほうが、こっちは迷惑なのだが」
「・・・んなっ・・・」
「お前がそうやって伏せっていると心配だ。それこそ大迷惑だ」
「・・・ッ」
「そんなに私たちは頼りないか?」
「んな事ねぇッス!!」

がばっと立ち上がって、今まで掴んでいたユーリの手を勢いよく引っ張る。
そして大きな体で抱きすくめると、アッシュはユーリの耳元でいつもより低く囁いた。

「・・・そんなに言うんだったら・・・どうにかしてもらおうじゃねェッスか」

いつもの温和なアッシュではない。
やはり覚醒した獣は迫力がある。
ユーリはにやり、と口角を上げアッシュの顔を見上げた。

「・・・望むところだ・・・」

そんな言葉で挑発しながら、アッシュもろともベッドに倒れこんだ。






「ッあ・・・ゃ、ッんん・・・」

一糸まとわぬ白いカラダが、シーツの上で跳ね上がる。
それをいとも簡単に扱う、大きく器用な手があった。

「・・・ん・・・ふ・・・」

口の中に指を突っ込まれ、赤い瞳を潤ませながらも舌で愛撫するユーリ。
手首を後ろ手で縛られて、さらに鎖のついた首輪が付けられて動けなかったが、
それでも暴れたりなどそんな抵抗はしなかった。
・・・あごに透明な唾液が伝い落ちる。

「・・・気持ちイイ?」

普段とはまったく違う雰囲気を放ちながら、アッシュはベッドに埋まったユーリの胸の飾りを片手の指で引っかく。
そのたびびくびくと反応するカラダを、意地悪そうな笑顔で苛める。
ゆっくりと指を赤い唇に這わせれば、小さくみじろぎをして誘うようなしぐさをする。
・・・もうすでにユーリ自身が先端から蜜を溢れさせているが、それにはあえて触れないアッシュである。
首筋に噛み付いたように痕をつける光景はまさに野獣のようであった。
ぬるっとした唾液のついた指を、アッシュはするすると腹に滑らせる。

「・・・ぁっ」
「・・・ふふ」

含み笑いをひとつこぼすと、その指をまた小さなユーリの口へと突っ込む。
そしてひざを白い太ももとの間に入れ挟ませる。

「・・・はっ・・・」

呼吸するために喘ぐ口を、アッシュは指を引き抜いて自分の唇で塞いだ。
さらに追い討ちをかけるように、今まで一度も触れていなかったユーリ自身に指を這わせる。
そしてきつく、扱く。

「んん・・・んぅッ、ふ・・・」

唇をふさがれたまま、その愛撫に身を任せてなすがままにされているユーリ。
真っ赤になりながらも、決して抵抗はしない。

アッシュの苦しみが、私のこのカラダごときで癒せるなら、と。


「んッ・・・んぅぅっ!!」

背をそらしながらあっけなく蜜を零す。
唇を離し満足そうな笑みをアッシュは浮かべると、今度は大きく開脚の形をとらせる。

「・・・おとなしく・・・開いて」

有無を言わさない口調で、にこりと笑顔を作られる。
ユーリは涙目になりながら、恥ずかしげに脚を開く。

「んっ・・・アッシュ・・・ぅ」

か細い声で、名前を呼ぶ。
すると褐色の大きな手が、ユーリの白い頬に触れた。

「・・・どうしたの?」

そのままあごをぐいと引き顔を寄せる。
するとユーリは潤んだ瞳をアッシュからそらし、頬をもっと赤く染める。
そしてアッシュとゆっくりと目を合わせると、言ったのだ。

「もっと・・・していい」

いったいどれほどの余裕が残っていたのかは分からないが、ユーリはそんなことを口にした。
アッシュはにやりと舌なめずりをすると、首輪の鎖を引っ張りユーリを起こす。
手首を拘束していた縄を外し、アッシュの首に巻きつけさせる。

「・・・乗って」
「ッ・・・」

ユーリはおとなしく、上体を起こしたアッシュの腿の上にまたがる。
そして猛ったアッシュ自身を、自分の蕾の中へと・・・導く。

「・・・ッん・・・あぁぁっ」

上ずった声で喘ぐ吸血鬼。
狼男はその獲物に、快楽の牙で喰らいつく。

「・・・あ、ゃ、はぁッ・・・」
「んっ・・・」

派手な水音を立てながら自身を内部にこすり付ける。
それに過剰に反応するユーリは、あまりにも淫ら過ぎて。
アッシュは思わずぞくりと寒気が背筋を通った。

「・・・・・気持ちイイ?」

ついさっき言った言葉をまた口にし、ふと動きを止めて問う。
するとユーリはこくん、と首をふり、自分から腰を動かし始めた。

「ん、んんっ、あぁッ」

リズムがどんどんと早くなってゆく。
それに連なり、アッシュも頂点へと達しようとしていた。

「・・・ユーリ・・・っ」
「・・・ッイけ・・・馬鹿犬・・・ッ」

切羽詰った状態でまだこんな言葉を、とアッシュは心の中で苦笑する。
そして二人ほぼ同時、白い快楽の蜜を溢れさせたのだった。






「・・・起きたか馬鹿犬」
「・・・ぅ?ユーリ・・・?」

ねぼけた視界に、ダルそうなユーリの顔。
ベッドに横たわったまま本を読んでいたらしい。
アッシュは目をこすりながら、むくりと起き上がる。

そして、全裸であるユーリを今度ははっきりと見、昨日の事をいろいろと思い出す。


「・・・・・」
「・・・どうした?」
「・・・ぅぬぁぁぁぁぁああ!!!」

変な叫び声をあげたかと思うと、一気に顔が真っ赤になったアッシュ。
そして上半身裸のまま、

「すみませんでしたッス!!」

・・・土下座。

しかしユーリは顔色ひとつ変えもせずにいった。

「・・・もう苦しくないか」
「・・・え?」

アッシュは予想外の言葉に驚く。

「・・・あ、はい・・・もう平気ッスけど」
「ならいい」

そうしれっと言い放つユーリは、どこか優しくて。

「ありがとうッス・・・ユーリ」

困ったような、しかしふわっとした笑顔で礼を言った。
するともうその次の瞬間から、ユーリの態度はころっと変わってしまった。

「ふん・・・そんなことより早く私を風呂に連れて行け。お前のせいで痛くてうごけん」

自分がアッシュに攻められて気持ちよくなっていたことは棚に上げ、怒り調子で命令を下す。
アッシュはゴメンなさいッス、と腰を低くしながら、
ユーリを軽々と姫抱きし風呂場へと連れて行ったのだった。




・・・苦しいなら頼ってくればいいのに・・・あの馬鹿はすぐ我慢に走る。
私があぁでもしない限り、一生吐き出そうとしなかっただろう。




少しぐらい、迷惑でも何でも掛けてみろ。

・・・馬鹿犬が。

fin.