何だって手に入った。
何だって思い通りになった。
それなのにどうして。
どうしてお前は。
まるで合わない歯車みたいに。
思い通りには、ならない?
月が明るく夜を照らす。
その光とは正反対の黒色の帽子と服を身にまとい、マフラーをなびかせながら月を横切ってゆく姿があった。
・・・そう、このポップン界の神、MZDである。
「・・・今日は・・・誰の家にいってやろうかな」
ぽんぽんとポップン界に生きる者達の顔を思い浮かべる。
そして出た最終結論。
「うし、仕事の邪魔しに行くか☆」
にまっと笑った後、右手の中指と親指をくっつけぱちんと音を鳴らす。
その瞬間、神はそこにはもういなかった。
「ユーリ、どうスか仕事具合は」
「まぁまぁだ。とりあえずこの歌詞に音をつけてみたが」
「あ、それもう出来たんスか!?お疲れッスw」
コーヒーを脇に置きながら、音符が並ぶ譜面を笑顔で食い入るように見るアッシュ。
ユーリはひょいとアッシュにそれを渡す。
「スマイルと音が外れていないか確認しててくれ。私も次のが終わったらそっちに行く」
そういうと、アッシュははいッス!と元気よく返事をし、譜面を持って部屋から出て行った。
ユーリはイスに深く腰掛け、ぐっと背伸びをする。
そしてまた机に向かい、羽ペンを手に取る。
「さて、どんな歌詞がいいものか・・・」
「愛の歌なんてどうよ?」
「・・・誰に向けてだ」
「俺w」
「お前は本当にろくな事を言わんな、腐れ神が」
「ひどっ」
突然の神の登場にも全く動じず、むしろ話をやってのけているユーリ。
かなり何度も同じ状況が繰り返されているのだろう。
神はユーリが座るイスの背もたれにひじをつき、ふーん・・・という目でつづる文字を見ていた。
・・・しかし黙々とそれをやり続けるので、神はだんだんと飽きてくる。
「なー遊ぼうぜェ?ユーリぃ〜」
「仕事中だ」
「いーじゃん少しぐらいさ」
「お前にかまってる暇はない」
あまりにもそっけない態度。
神は少しむっとする。
「・・・ちぇ」
くる、とターンし、大きなベッドにうつぶせに寝転がる。
相変わらずユーリは机に向かったままである。
そんな姿を見、神はふと何かを思いついたようで。
指を、ぱちんと鳴らした。
「う、おわっ!?」
突然ものすごい勢いで回転しだしたイス。
遠心力でぽんとはじかれたユーリは、飛んできた神の腕に見事にキャッチされていた。
「面白かったっしょ?」
「んなわけ無いだろう馬鹿が!」
「はぅっ」
ぱしんと両頬を両手で叩かれ、今まで浮かべていたイジワルそうな笑みがふと消えた。
「いってぇー」
「仕事の邪魔をするな」
「・・・・・」
一言で片付けられた神は、余計に不機嫌になる。
腕の中に居たユーリをぽんと自分から離し、ふいとまたベッドにダイブする。
「・・・仕事なんかすんな」
「それは無理な話だ」
そういいながらさっき勢いよく回っていたイスを机に持っていき、
ユーリはまた先ほどの中断された仕事にもどる。
・・・なんだか今日はあてがハズレたようだ。
少し、寂しい。
「・・・終わったら言えよ。もー邪魔しねーから」
「・・・あぁ」
珍しく今日は引き下がる神。
これ以上ユーリの神経を逆撫でしたら城を追い出されそうだ。
かりかりと書き綴る音だけが、部屋に響く。
イスに座ったユーリの後姿を、神はじっと見つめていた。
「思い通りには・・・いかねぇもんだな」
ベッドに寝転がり頬杖をつきながら、ユーリには聞こえない程度にぼそ、とつぶやいた。
「・・・神。終わったぞ・・・」
ユーリがベッドに居るはずの神に声を掛ける。
しかし返事は無かった。
「神・・・?」
ふとベッドを覗くと、神は静かに寝息を立てていた。
狸寝入りではなく本当に寝ているらしい。
ふぅ、と苦笑しながら布団をそっとかけてやるユーリ。
「さっきは・・・強く言いすぎたな」
そういって、ベッドのふちに座り神のかぶっていた帽子を脱がす。
そして、さらさらの茶色い猫っ毛を優しく撫でた。
「・・・これで許してくれ」
す、と顔を神に近づける。
目元に、軽いキス。
神が寝ていてくれてよかったとユーリは思う。
もし起きていたら、こんなに軽くでは全然済まされなかっただろう。
・・・まだ神は眠ったまま。
ユーリはその寝顔を見ながら、起きるまでずっと髪を撫でていた。
『気まぐれな この感情は 貴方によく 似ていて』
「気まぐれな その貴方は ずっとそばに 居るはずは無くて・・・」
美しく綺麗に響いた歌声。
それは、自分の目の前にいる気まぐれな神様の事を歌っているようだった。
・・・自分では、思い通りにならなかったけれど。
それと気付かぬうちに。
思い通りの歯車に、きっちりと当てはまっているかもしれない。
ほら。
ここにもまたひとつ。
かちりと、音をたてて。
fin.