ぜぇぜぇと息を乱しながら、シャッターの前にずるずると座り込んだ。
涙はもうとっくに乾き、ほおは紅潮していた。
ジャックは操り人形のように、あおむけになって目をつぶっていて。
片腕をぎゅっと握り締めたKK。
・・・助けたいのに・・・どうしてこんな時に限って・・・ッ―――
「・・・助けてさしあげましょうか」
「ッ!?」
ふっと目の前が暗くなり、上から声が降ってきてびっくりするKK。
上を見て顔を確認すると、その右半分には仮面が付けられていた。
「・・・あんたは・・・」
目をまるくしたまま聞くKK。
その問いに笑顔で答える紳士。
「初めまして・・・。ワタシはジズと申します。以後お見知りおきを」
ぺこと頭を下げ、再び笑顔を作る。
「あ・・・はァ・・・よろしく」
いきなりの展開に混乱しているKKに、エメラルド色の肌を持つ紳士は謝る。
「すみません、こんな突然・・・。ですが、どうしても放っては置けなかったのです」
そういわれたものの、KKはどうもまだ状況が飲み込めていないらしく。
「なぁ・・・ジズさんよ」
「はい」
「・・・聞いちゃなんだが・・・アンタみたいなのがどうしてこんな場所に居るんだ?
・・・舞踏会でも終わってその帰りかい?」
まさに紳士のいでたちをしているジズは、どうしても人目をひくのである。
ジズは相変わらずにこにこしながら答える。
「ワタシはただの通りすがりですよ。こういうものを身につけるのが好きな・・・」
「・・・・・そうか・・・わかった」
とりあえず話を切ろうかとおもった直後に、また発見をしてしまう。
「・・・すまん、つかぬ事をもうひとつ聞かせてくれ」
「はい?」
「脚が透けて見えるのは気のせいか?」
「あぁ、それは仕方の無いことですよ」
KKをふとかがんで見、
「だってワタシ、幽霊ですからね・・・ふふ」
と意味深な顔で笑った。
目の前に幽霊がいるのにもびっくりだが、それに全く動じない自分もびっくりだ。
「・・・本物なんだな・・・」
「えぇ、もちろんです」
そういうとジズは、KKの横に倒れているジャックをしゃがみこんで見つめる。
「・・・KKさん」
「何・・・だ?」
なぜ名前を知ってるんだ・・・?
少々疑問を残しながらも、ジズの呼びかけに答える。
・・・ふと紳士は神妙な顔つきになり、空を見上げた。
「・・・魂が・・・この体から抜け出しているみたいですね」
KKは目をみはる。
「・・・・・死んでは、いないのか?」
ジズはこく、と首を縦に振るが。
「しかし・・・この方がそのまま・・・逝きたいとおもっていらっしゃるなら・・・」
「ッ・・・」
―――・・・ジャック・・・お前の願いはどっちだ・・・?
まだ、生きたかったか?
それとももう・・・こんな世からいなくなりたかったのか?
「連れ戻す・・・ことは、出来るのか」
駄目もとながらも聞いてみる。
「貴方が直接逝って連れもどす・・・というのでしたら」
「!?」
「本気で助けたいとお思いでいらっしゃるなら・・・そのやり方が一番早いですよ」
・・・しかしこの言葉・・・つまりは、自分から逝け、と遠まわしに言われたようなものだった。
「・・・オレに死ねって言ってんのかい?」
そうおどけてジズにぶつけてみると、
「ご心配なく。ワタシが連れ戻して差し上げますので。貴方たちが生きたいと念じれば、ワタシはお戻しいたしましょう。
・・・少々手荒いですが・・・でも助けたいのでしょう?この方を」
と笑顔ながらも真剣に返事が返ってきた。
―――・・・嘘じゃぁ・・・ねェようだな。
「あぁ。こいつが・・・ジャックがどう思ってんのかも知りたいしな。・・・頼む」
生き続けたいのか。
それとも、このまま死んで楽になりたいのか。
本心がとにかく知りたかった。
まぁ・・・オレは何が何でも連れ戻す勢いだったんだが。
・・・ジズはにっこり笑うと、オレの胸の中心に手を置いた。
「では・・・逝ってらっしゃいませ」
その言葉を聞き、とん・・・と胸を押された瞬間。
・・・KKはもう、この世の住人ではなくなっていた。
―――・・・KK。
俺・・・死んじまったよ。
機械なのにな。血も涙も出ないのにな。
・・・どうして死んじまったんだろう・・・。
俺、死なないはずなのに。
・・・・・死ぬ・・・そんな言葉、俺自体には無縁だったはずなのに。
殺しすぎたのかな。
人を、殺しすぎたから・・・さんざん悪いことしてきたからかな?
ばちが当たったんだ、きっと。
・・・もう楽になろう。
・・・・・もう・・・俺は必要とされてはいないから・・・。
「・・・ク・・・」
―――・・・?
「・・・ジャック・・・!!」
―――――・・・KK ・・・!?
どうして・・・ッ
『・・・おれを殺したのはお前か・・・化けモノ・・・!!』
―――・・・え?
後ろから襲ってくる、・・・多分・・・俺が殺した人たちの魂達。
俺は振り返って、KKの目に触れさせないように向き合い立ちはだかる。
『・・・お前のせいで・・・僕の両親は悲しんでる・・・!!』
『今すぐ・・・元にもどせ!!』
『・・・ッまだ死ねないのよ・・・!!』
『今度はお前を地獄に堕としてやるよ・・・覚悟しろ化け物めぇぇ!!』
ものすごい雄叫びがこだまする。
しかしどくにもどけない。
後ろにはKKがいる。
「・・・っ」
立ち向かったまま・・・ジャックは静かに目を閉じた。
「あぶねぇぞ!!」
KKの声が聞こえる。
・・・そんなことわかってる・・・。
でも・・・これは全部、俺がしてきたことだから・・・。
「・・・ッ本当に死にたいのか!?」
「!」
KKが続けて怒鳴った。
「お前の望みは死ぬことだったのか!?そうなのか!?
ならもっと早く言え馬鹿!!オレが殺してやったのによォ!!」
―――・・・どうして悲しいんだろう?
・・・ずっと、死にたいと思ってたはずだ・・・なのに・・・。
どうして今、死ぬことを躊躇した?
「俺は・・・」
どうして?
KK。
どうして、そんなことを言う・・・?
『うおおぉぉぉ!!』
―――死にたく・・・ない。
許されるなら・・・もう少しだけ生きたい・・・。
・・・いや、許されなくたって・・・生き続けたい・・・!!
・・・・・お前と、一緒に・・・。
「ッ生きたい・・・俺は生きたい・・・KK・・・!!」
「・・・戻って来い、ジャック」
大きな手を、俺はつかんだ。
引き寄せられて、胸に抱かれる。
まだ片手のままだったけれど。でも。
・・・俺はそれでも、二度と離れないように。
ぎゅっと手を握っていた。
―――――・・・「「生きたい」」・・・―――――
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