・・・ワタシの腕はきっと、貴方には届かない。
知っているのです。
だって貴方は、ちゃんと生きているから。
・・・こうして、目の前にいるのに。
しっかりと、その姿が見えているのに。
「 」
名前を呼んでみても。
届くはずは無くて。
貴方は振り向かずに、ワタシから離れていってしまう。
何も言わずに。
静かに、背を向けて。
ドアの向こうに消えた貴方を、いつから想い始めたのでしょう。
こんなにも、苦しい想いなど。
感じたくは無かったのに。
どうして、腕なんて伸ばしてしまったのだろう。
あの時どうして、ワタシはこの透けた腕を伸ばしたのだろう。
触れられるはずは・・・ないのに。
・・・その薄い水色の艶髪に。
・・・その薄い色素の肌に。
・・・その、美しい貴方に。
触れたかった。
ワタシは、純粋に。
貴方を愛していました。
・・・えぇ、届きません。
生きている者に、死んだ者の腕など。
声など。
届くはずは無い。
・・・知っています。
そんな、簡単な事など。
「・・・知っているからこそ、求めるんですよ・・・より強く」
・・・寂しいからこそ。
求めてしまう。
・・・その、温かいぬくもりを。
生前に感じた、そのぬくもりを。
・・・今は・・・何も、感じられないけれど。
・・・貴方はもう、行ってしまったけれど。
でもいつかまた、貴方はここに。
戻ってきてくれる。
そんな気が・・・するのです。
「・・・ズ、ジズ・・・?」
「・・・ッ!?」
・・・目のまえには、心配そうな顔で見つめる、あの想い焦がれた人。
「・・・ユーリ・・・さん?」
「・・・大丈夫か?」
自分の頬に、しっかりとした感触。
色素の薄い手が、触れている。
「何の夢を見ていた?」
・・・泣いていました。
ワタシは、気付きませんでした。
「夢?」
・・・あぁ。
そうでしたか。
あれは・・・夢でしたか。
「・・・貴方が、ワタシを置いて・・・出て行ってしまう夢」
「・・・・・馬鹿」
ぐいと、貴方はワタシの顔を自分の顔へ近づける。
そして言いました。
「私はお前と・・・契りを交わしたはずだが」
胸元をはだけさせて見せるは、黒い薔薇の契りの印。
「私はもう・・・お前のものだ。ジズ」
そういった貴方が。
どうにも、愛おしくなって。
「・・・そうですね。・・・貴方は・・・ワタシのものです」
ぎゅっと、抱きしめました。
夢の中で見たものは。
単なるワタシの・・・空想でしょうか。
それとも・・・現実になってしまうのでしょうか。
・・・今は、忘れたい。
そんな事など。
だからぎゅっと、もっと強く、抱きしめました。
このぬくもりが。
いつか、消えてしまわぬように、と。
fin.