・・・ガチャッ。

「っはー・・・疲れた・・・っと。・・・おい戦闘兵器」

声を掛けると、ジャックはまだ眠っていた。
かなり熟睡しているらしく、ぴくりとも動かない。
寝息だけが静かに響く。
そんなジャックを見、なんだか可哀相に思えてきたKKは、薄い茶色の髪を撫でる。

「・・・・・勝手に連れて来ちまったが・・・まぁ許せや。助けてやったんだから」
「・・・ん」

言い終わるなり手を離すと、ジャックは眠ったままKKのほうに顔を向けた。

・・・綺麗な顔立ち。
どれだけ、その裏に傷を負ってきたのだろうか。
痛みにじっと耐えながら。
独りで。
ずっと。

「・・・ぅ・・・ッ!?」

ふとジャックが目を覚ます。
すると、自分の頭にKKの手があることを知り、驚く。
つい手がまた出てきてしまったらしい。

「お前・・・何を」
「いーや?頭撫でてただけだが?」

しれっと言い放ち、ぷいと後ろを向いて冷蔵庫をあさり始めたKK。
・・・ジャックにとって、頭を撫でられるというのは初体験だった。
同時に嬉しくもあった。
少しだけ赤くなりながら、KKに話しかける。

「・・・KK」
「あ?」
「・・・・・助かった」

さっきの言いそびれた礼を言う。

「・・・あれぐれェ気にすんなよ」

と言葉を投げ返す。

KKは冷たい缶を二つ持って来、片方をジャックにひょいと差し出した。

「お前、飲み食いは出来んのか?」

ベッドに寄りかかって座り、缶を振ってコーヒーを飲み始める。
足元で目だけをジャックに向ける。

「・・・したことは無いが・・・出来る事は出来る」
「ほー・・・出来るのか。んじゃそれ飲めや。気分転換にゃちょーどいいぜ」

笑ってそう促したKKを、ジャックはじっと見ていた。

―――・・・そんなにすごい飲み物なのか・・・?

飲食に関して全くの無知なジャックは、さっきKKが缶を振って飲んでいたのを見て、
同じように振って口を開けようとした。
するとKKがあわてて止めに入った。

「あ、おいバカそりゃ・・・ッ」
「え?」

ぶしゅっ。・・・ぼたぼたぼた。

「・・・炭酸なんだが・・・それ」

少しだけ気付くのが遅かったらしい。
顔に飛び散った炭酸飲料をきょとんとしながら舐める。
舌を刺激するような、でもなんとなく甘い味がした。

「・・・っははは」

KKはその間抜け面を見て笑い出した。

「おま・・・そこまで何も知らないなんてな・・・。
炭酸は振らねェで飲むんだよ。そうしねェと今のお前みたいになっちまうからな」

まだくすくすと笑いながら、タオルを出して顔を拭いてやる。

「ほら、まだ残ってっから飲んじまえ・・・っとそうだ、その前に」

KKは自分が持っていた缶コーヒーをジャックの缶にぶつけ、こういった。

「これから・・・よろしくよォ。ジャック」
「!!」

初めて、KKが名前を呼んだ。

「・・・おう」

ジャックがふと無意識に微笑む。
それを見てKKは、

「何だ・・・そういう顔も出来んじゃねェか」

とジャックの頭を無造作にかき乱す。

「ちょっ・・・」
「こっちこそ、ひさしぶりに笑かしてくれてさんきゅーな」

満面のKKの笑みを受けて、ジャックもつられて笑顔を作った。



・・・それからの事だ。
オレとジャックが、掃除屋タッグを組んで有名になったのは・・・―――






「・・・ッ!!」

大きな人影。
ジャックの何倍も太い腕。

「最後のチャンスをやろう」

それは、ジャックを追ってきた『破壊屋(スクラッパー)』だった。
ジャックのこめかみをがしっとつかんで上に持ち上げ、そんなことをいった。

「・・・う゛・・・離せっ・・・」

暴れるが、抵抗もむなしく抑えられてしまう。

「KKを、殺してこい。戦闘機ジャック」

そう言うと、破壊屋の腕からすさまじい勢いの電撃が走った。
脳に直接響いた電撃。

「う・・・あ、あぁぁ゛あ゛あ゛!!!」



―――・・・KK・・・。

まだ、傍に。

居 タ カ ッ タ 。






「・・・ジャック・・・どこだ、おい!!ジャック!!」

そのころKKは、ジャックを探して納屋にいた。
しかしそこには誰も居なくて。

「おかしい・・・どうして」

入れ違いになったのか。
・・・だとすれば、どこにいる・・・?

・・・考えている暇はないのだ。
すごく、とてつもなくいやな予感がするのだ。

「・・・ッくそ」

突然眠気と疲労が襲ってくる。
それもそのはずだ。
ずっとここまで長い道のりを走ってきたのだから。

「・・・ジャ、ック・・・」

名前を呼びながら、KKはふっとその場に倒れてしまった。





ドドドドッ・・・

ジェット音。
それも、何度も聞き覚えのある。

「見、ツ、ケ、タ・・・・・」

機械そのものの声で発した言葉は、冷たくカタコトだった。
しかしその声の主は・・・目の前にいるターゲットに憧れていた戦闘兵器で。

「KK・・・殺ス」

ガスマスクの下に隠した、本当の悲しげな・・・しかし無表情の顔。
ジャック、だった。

すぅすぅと寝息をたてているKKの後姿を、ジャックは見る。
そして、自分の武器である爪を装着する。

・・・ぐっと、振りかざす。




―――やめろ。

「殺ス」

―――止まれ・・・。

「殺セ」

―――イヤだッ・・・!

「KKヲ、殺セ」



―――ッ嫌だぁぁぁ゛ァァ゛!!!




「KKェェ―――――ッ!!!」




・・・憧れの、この人の名前を・・・この口で呼ぶことはもう・・・ない。



・・・ッガシャンッ・・・。

「・・・!!ジャック・・・!!」

さっきの叫び声で目を覚ましたKKは、ジャックの悲痛な姿を目にした。


腕が・・・右腕が、下に転がっていた。
大きな爪を装着した方を、自分で自分の体から引きちぎったのだ。


ガスマスクを残った左手で外し、泣きそうな顔でジャックが口を開く。

「・・・殺・・・シタク・・・ナイ」

カタコトの言葉で、ジャック本来の声と機械の声が混じる。

「・・・ッな・・・にしてんだよ馬鹿野郎ッ・・・」

ひざ立ちから倒れてきたジャックを胸に両腕で抱きこむ。
左腕だけが、KKの背中に回された。

「腕が足りてねェよ・・・ジャック」

KKの目から、涙があふれてきた。

「・・・オレなんかかばうな・・・大事な腕簡単にちぎるな馬鹿・・・!!」

・・・ぼろぼろと、大粒の涙が頬に伝う。

今まで泣いた事なんて、めったに無かったというのに。
だけど今は・・・すごく、悲しかった。


―――どうして自分を犠牲にしてまで・・・オレを守った・・・?


「すぐにくっつけてやっからな・・・まってろよ」
「・・・ン・・・・・」

がくんっ。

一気にジャックの重みがオレにかかる。
冷たく、固い・・・ジャック。
泣いたままオレは、ジャックを町の工場まで担いでいった。
ちぎれた腕を片手で持って。

・・・悲しすぎた。





―――ジャック・・・お前は今オレをかばって、助けてくれたんだよな?

今度はオレが、お前を助けるから・・・少しだけ待ってろ。
すぐに・・・すぐに元に戻してやる・・・だから・・・。


・・・また、オレと一緒に笑ってくれ・・・。

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