・・・俺の存在に・・・今すぐ気付いてください。
目の前にいる、貴方の後姿を・・・。
―――血の色で、染めたくはないから。
『戦闘機ジャック、応答しろ』
低い声でイヤホンから聞こえてくる音。
「・・・こちら戦闘機ジャック」
聞き飽きた声にうんざりしながら、仕方なく応答する。
すると、その口からとんでもない事を聞かされた。
『スナイパーMr.KKを、一刻も早く排除しろ。・・・以上だ』
「なっ・・・!!」
そう告げられると同時、ブツッと無線が途絶えた。
―――Mr.KKを、殺せ・・・?
俺に・・・それをやれというのか・・・!?
・・・・・ッイヤだ・・・出来ない。
だってそいつは・・・俺の・・・。
―――・・・俺の・・・憧れの人、だから・・・。
・・・しばらくジャックは、その場に立ち尽くしていた。
そこは血だらけの部屋で。
たった今、ひとつの任務を終えたというのに、またたて続けに仕事が入ってくる。
しかも、次の仕事は自分が強い憧れを抱いていた人間を殺せというもので。
・・・そんなこと、出来るわけがない。
何のために?
何でその人を殺さなきゃならない?
理由は何だ?
・・・何度考えても、答えは出ては来なかった。
「何て面してんだァ?ジャック」
「ッ・・・KK・・・」
血だらけのジャックを見、自分が持っていた青いタオルでごしごしと拭く。
こびりついてしまった血は取れなかったが、それでもKKは気休めだ、と笑って乱暴に血をぬぐう。
・・・少しだけひげの生えた、つり目の足長兄貴・・・とでも言うのだろうか。
優しくて、強くて、いつも助けてくれる・・・・・憧れの人。
「ありが、とう・・・」
「珍しいな、お前が礼言うなんて。何かあったのか?」
痛いところをつかれ、うっと言葉が詰まる。
「・・・んでもない」
そういうとジャックはぷいとそっぽを向き、外へ走って出て行く。
KKもその後を追いかける。
しかしジャックは追いつかれていろいろ聞かれるのを避けるため、空を飛んで高い位置に上がった。
ジェット音が鳴り響き、ガスマスクを付けたジャックは遠くへと逃げた。
KKは一人残されつぶやいた。
「・・・絶対ありゃ・・・何かあったに違いねェ」
・・・仕方なくKKは掃除屋のつなぎに着替える。
よく駅などで見かける、あの掃除のおじさんの姿だ。
KKはいつも、町の掃除をしたり、駅の掃除をしたり、とにかく自分の本業を悟られないようにつなぎを着ていた。
・・・しかし、彼の本業はスナイパー・・・つまり別の掃除屋をやっているのだ。
遠距離攻撃が得意で、ジャックの補佐・・・パートナーをしている。
ジャックの方は、自分の改造された大きな爪でターゲットの背後から襲い掛かる。
それを万が一しくじったら、KKの出番。
遠くから相手をぶち抜く。・・・それが仕事。
・・・手は赤く染まるわ、顔や服にまで返り血が飛び散っているジャックを見るたびKKは思う。
―――わざわざジャックが、自分の手を汚す事はないんじゃないのか?
・・・と。
自分が遠くから頭をぶち抜けば、それで任務は終わるのにと。
だがそれでは、ジャックの存在理由が無くなってしまうのだ。
ジャックは戦闘のためだけに造られた、戦闘兵器だから。
しかし彼はしっかりと自分の感情を持っていた。
人間に限りなく近い、細かな感情を。
人を殺すということがいけないという事は分かってはいる。
けれど、それがジャックの存在理由だから。
殺す事で、自分の居場所を守っているのだ。
「出来る事なら・・・オレが守ってやるのに」
かぶっていた帽子をさらに深くかぶり、さっきジャックが飛び立っていった方向とは反対に、KKは歩いていった。
・・・この人だけは殺したくない。
いくら命令でも。
・・・でもこれを聞かなかったら。
俺は、壊される・・・。
「・・・それでも・・・かまわない」
ジャックは、いつも自分が寝泊りする壊れかけた納屋にいた。
ひざを抱えて。暗い中、ひとりそうつぶやく。
・・・俺の命で、大事な人の命が助かるのなら。
だったらよろこんで、この身を投げよう。
スクラップにでも何でもしろ。
俺なんて、こんな場所にいたって無意味だ。
人を殺さなくちゃ生きていけないなんて。
そんな風に生きていくのなら、死んで居なくなった方がいい。
この世のためになる。
・・・・・でもそれが出来ないのは。
俺が、臆病者だから。
自分から、身を投げ出す勇気がないから。
・・・KK。
俺が居なくなったら、悲しんでくれるかな。
・・・俺の、ために。
「・・・・・ッう・・・」
急に悲しくなった。
抱えていたひざをぎゅっと強く抱き寄せて、悲しみに耐えた。
・・・泣きたい。でも。涙が、出ない。
俺は、操り人形だから・・・。
・・・ふと、眠りについたジャックを起こすように無線が入った。
『戦闘兵器ジャック、任務は終わったのか』
突然、あの低い声がイヤホンを通して耳に伝わった。
ジャックは慌てふためくが、応答には落ち着いていた。
「未だ、完了できていません」
そういうと、イヤホンの向こうから呆れた声が返ってきた。
『・・・お前もまだまだ半人前のようだ。この程度の獲物なら一発だろう?
それにずっとお前のそばに居る。狙いやすい事この上ない』
ふとジャックは怒りを覚えた。
俺が言えたコトじゃないのは分かってる。
けど・・・けど、人の命はこんなに簡単に扱って良いものなのか?
・・・ふざけるな。
「・・・・・貴方には、分からない」
『今のは私に対しての侮辱か?』
「何とでも思え・・・もう俺は貴方には従わない!!」
・・・言った後で、覚悟を決めた。
―――もう俺は、生きられない。
『そうか・・・ではもうお前とは二度と会う事はないだろう。たった今、
破壊屋(スクラッパー)をそっちに送ったからな。・・・じゃぁな、戦闘兵器ジャックよ』
ブツンッ。
無線が乱暴に切られる。
もう俺には存在理由が無くなった。
殺す事を放棄したのだから。
・・・でも、それでも悔いは無い。
破壊されたっていい。
何よりも、あの人が助かればそれで、いい。
・・・しかし、ジャックの心はまだ複雑だった。
―――・・・最後にもう一度だけ・・・会いたい。
許されるのならば・・・。もう一度だけ。
「・・・・・!」
すごく、嫌な予感がした。
町のど真ん中でほうきを持ちながら、空を見上げるKK。
胸騒ぎがするのだ。妙に。
―――・・・あいつに何かあったのか・・・?
・・・いや、そんなはず・・・。
そう思いかけた瞬間、KKの脳裏に血だらけで倒れているジャックの姿が映った。
実際ジャックは機械なので、血は出ないのだが、きっとその血は返り血ではないかと思われる。
・・・だとしたら、余計にまずい。
KKはつなぎのまま、ジャックの納屋の方へ走り出した。
―――・・・無事で、居てくれ・・・!!ジャック・・・!!
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