「・・・君の生徒だろう。責任は取ってもらう」
・・・え?
僕の生徒が何か・・・したんですか・・・?
「・・・ハジメ?・・・おーい・・・どうした?」
「・・・ぅ、あ、先輩!」
「調子悪いのか?」
「ぃ、いえ全然!・・・っと、教室行かなくちゃですね!!じゃ!」
「あ、おぅ・・・」
がたっとイスから立ち上がって、職員室を出て行ったのはハジメ。
いつもメロンパンを片手に作業をしている。
おでこにはタオル、腰にはジャージが巻かれ、いかにも若者らしい服装で授業をする元気者だ。
・・・だが、今日はいやに静かだった。
ハジメに先輩と呼ばれているDTOは、
隣でぼーっと遠くを見ていた後輩を心配し声を掛けたのだが、適当に誤魔化され逃げられてしまった。
駆け足で出て行ったハジメを見送りつつ、DTOは首をかしげた。
「・・・で、ここはこうなるから・・・」
黒板に白い文字や黄色い文字が書かれている。
それを色ペンやシャープペンなどで書き写していく生徒たち。
・・・でも、一人足りないのだ。
何度数えても、一人だけ。
「・・・今日も・・・来ないのか?あいつは」
「あー、今日はゲーセン行くって言ってましたよー」
「・・・はー・・・」
このごろため息ばかり出る。
その生徒の事で悩まされて。
・・・いい加減、辛いものがあった。
「わかった。今度会ったら学校に引き連れて来いな。頼むぞ」
「えー?先生無茶言わないで下さいよ!」
「っははは」
苦笑するが、内心は少しそう思っていたり。
・・・でもハジメは、強制が嫌いだった。
自分の意思で来なくては意味がないし、無理矢理来させても勝手に帰ってしまうから。
強く言えないハジメにとっては、結構な難問だった。
―――・・・もうすぐ、僕はここに、来られなくなる。
でも・・・後悔は・・・していない。
・・・はずなんだ。
『僕の生徒が・・・何かしましたか?』
すると校長は、表情一つ変えずに言った。
『・・・君の生徒・・・あの赤髪の子が、暴力事件を起こした』
『ッ・・・な』
『しかも相手はかなりの重傷らしい・・・。しっかり指導していたのか?』
・・・何も・・・指導さえ出来なかった。
教室にだって来てはいなかったのだから。
・・・それ以前に強く言えない僕は・・・あの子に対して、恐怖心を抱いていたんだ・・・。
『・・・ッ』
校長の言葉が否定できずに、唇を噛み締めた。
『退学・・・扱いだな』
『ちょ、ちょっと待ってください!!』
退学、と聞いて、僕はあわてた。
たしかに暴力事件を起こしたのはあの子だけど・・・!
『それは僕の指導が足りなかったばかりに起こった事です!!悪いのは僕なんです!僕が辞めます!!
・・・だからッ・・・退学になんてさせないで下さい!!おねがいします!!』
・・・必死に、説得した。
頭だって何度も下げた。
僕はどうなってもいいから。
だから・・・退学なんてさせないでください・・・!!
『・・・わかった。そこまで言うなら・・・いいだろう。ただし、停学には絶対になるが』
『退学にならずに済むのなら・・・』
『そうか・・・わかった。・・・だが本当にいいんだな?』
『もちろんです』
『・・・では、明日辞表を持ってくるように』
『はい・・・ありがとうございました』
・・・そういわれて、すごく悲しくなったけれど。
でも・・・これでよかったんだ。
退学にならずに済んだのだから。
・・・よかったんだ・・・きっと。これで・・・。
・・・すっかり外が暗くなってから、教室を出た。
ずっと、その事で考え込んでいたのだ。
だがさすがに空腹には耐えられず、とりあえず職員室に戻った。
・・・すると、自分が先輩と呼び親しんでいる人物が立っているではないか。
「・・・先輩?」
そう呼ぶと、その人影はくるっと後ろを向き、
「おぅ、待ってたぞ」
と言って、ハジメにメロンパンを差し出した。
「え?」
「朝から・・・元気なかったろ、お前。その調子じゃ帰りが心配だからよ・・・待ってたのさ」
「・・・あ・・・」
バレバレだったのだ。
朝いきなり呼び出されて、帰ってくるなりずっと暗い顔をしていたらしい。
ハジメは差し出されたメロンパンを受け取り、にっこりと笑顔を作る。
「・・・先輩。待っててくれてありがとうございます」
「おぅ」
DTOは白い歯を見せて笑った。
ハジメは突然、悲しくなった。
寂しくなった。
・・・もう・・・ずっとこの人に会えないんだと思ったら・・・。
でも・・・自分から辞めるって言ったんだ。
責任は僕にあるんだから・・・。
「先輩・・・もう僕のこと、待ってなくていいです」
「・・・どうして?」
「明日からもう、居ませんから」
儚げに笑顔を作るハジメ。
DTOは驚いて目を丸くし、細い肩をぎゅっとつかんで揺さぶる。
「居ない!?何でだ!?」
「いえ、僕の生徒が・・・暴力事件起こしちゃったんです」
その言葉に不自然を感じたDTO。
「・・・?どうして対象がお前なんだ?普通生徒が・・・」
「僕が、自分で言ったんですよ。『退学にするなら、僕が辞めます』って」
さらに驚く。
そこまで・・・自分を犠牲にしてまで生徒を守ろうとする、その後輩の姿。
DTOの心の何かが、ぐらっと傾く。
「・・・お前は・・・馬鹿だ」
「えぇ・・・もうそれで構いませ・・・ぅッ!?」
素っ頓狂な声を上げたハジメ。
一瞬のうちに、DTOの腕の中に閉じ込められた。
頬が一気に紅潮する。
「せ・・・んぱ・・・?」
「いい加減、俺の気持ちも察して欲しいもんだな」
「え・・・?」
「天然馬鹿って言うんだ、こういうのは」
「な、何が言いたいんですか」
抱きしめられたままふと顔をあげ、鼻先がぶつかりそうな位置でDTOを見る。
DTOは恥ずかしげに目をそむけるが、しかし真剣に言う。
「生徒が大事だから自分が辞める・・・お前らしいっちゃらしいが・・・
でもお前にはまだほかに生徒がたくさんいるだろう?・・・後先考えない癖をいい加減直せ」
「・・・あ・・・はい・・・」
腕の中でしょんぼりしてしまうハジメを見、DTOの中でまた、何かがうごめいた。
「・・・明日、俺が校長にお前が辞めなくていいように言ってやる」
「え!?いいですよ!辞めるって言ったのは僕・・・」
「俺が、お前を辞めさせたくないんだ」
ハジメの言葉をさえぎって、DTOの声が耳元で響く。
―――・・・お前を、辞めさせたくない。
「どうして・・・?」
「・・・はー・・・天然馬鹿にはかなわん」
「だから・・・っ」
「・・・お前が好きだからって事だ。簡単に言うとな」
さらっと告白をした。
ハジメはやっとDTOの今までの言動を理解する。
そしてさらに顔を赤くさせた。
「あ・・・・・」
「ようやく分かったのか・・・」
「はい・・・すみませんでした」
「いぃや?隠してた俺も俺だ。・・・でも、ちゃんと今伝えたからな」
温かかったカラダを離され、肩をぽんと叩かれる。
その瞬間、ハジメはDTOのワイシャツをぎゅっとつかみ、引っ張った。
「・・・・・先輩」
「何だ?」
「こんな僕なんかに、その言葉は・・・もったいないです」
「・・・じゃぁ、どうしてこの手は俺を引き止めた?名前を呼べば返事くらいするが?」
逆にそう問われ、ハジメは笑顔で答えた。
「・・・そっくりそのまま、先輩に返そうと思ったから・・・です」
目を合わせてはっきりと言った。
「先輩が・・・大好きでした」
「・・・・・」
DTOは、何もいえなかった。
後輩が、自分を好きだった事。
そして、ハジメが笑顔を崩さずにぼろっと涙をこぼした事で。
「・・・ハジメ」
名前を呼び、顎を上に持ち上げる。
身長が低いハジメは、ほとんど真上を向くような状態で、涙目ながらもDTOを見た。
いきなりの事でびっくりしているハジメの唇に、自分の唇をゆっくり重ねる。
「・・・ッん、ぅ」
ぴくんと反応した小さなカラダ。
追い討ちをかけるようにして、唇の角度を深くする。
ハジメが着ていたTシャツの下から手を入れわき腹をなぞると、
「やッ・・・」
と小さな喘ぎ声を出して身じろぎをした。
しかしDTO専用の机に押し倒され、完全に身動きが取れなくなった。
「先輩・・・やめ」
「お前が誘ったんだろう?天然記念物め」
「天然記念物って・・・それちが・・・っあ」
冗談を言うDTOの熱くて長い指が、ハジメの胸の飾りを撫でる。
すぐさま反応したらしく、ハジメの顔は真っ赤に紅潮しきり、息も少し乱れてきていた。
DTOは皮肉そうに笑む。
「・・・気持ちいいのか?」
「せ・・・んぱ・・・ッ」
潤む瞳。
さっきのキスで口から流れた唾液。
誘うような喘ぎ声。
「・・・・・もっと、気持ちよくしてやるよ・・・」
急にDTOの目つきが変わったことに気づくハジメ。
冗談なんて絶対に言わなそうな雰囲気であった。
・・・心なしか、自分に与えられている快感が強くなっているような気がする。
ハジメは少しDTOの行動におびえる。
しかしそんな事は全く気にならない様子のDTOは、ハジメのウブな反応を楽しんでいた。
喘ぐハジメをかき抱きながら、ハジメ自身に手を伸ばす。
「ッあ、・・・ぁ、っは」
ゆっくりとしごくたびに、色っぽい高い声が響く。
息遣いも荒くなり、先端からは透明な液体が流れ出てきた。
「・・・早いぞ」
「ん・・・ッぁ、やめて・・・くださ・・・ッぁんっ」
DTOの手に白く光る蜜が勢いよくかかった。
それを、ハジメの目の前でぺろぺろと舐める。
「や・・・先輩そんなもの・・・ッ」
まさか自分の出したものをそんな風にされるとは思っていなくて。
猛烈に恥ずかしくなり、ハジメはその汚してしまった手をつかんで言ったのだが。
「お前のだから平気だ」
「そうじゃなくてっ」
「・・・お前は気持ちイイ顔してりゃいいんだよ」
イジワルそうに笑顔を作るDTO。
ハジメは、目の前に穴があったら埋めてもらいたい気分だった。
・・・でも嫌ではない。
大好きな、先輩だから。
「・・・昨日は申し訳なかった、ハジメ先生」
辞表を出しに来たハジメに、突然のそんな一言。
一緒についてきたDTOも首をかしげる。
「え?」
「どういうことですか・・・校長」
校長はDTOの言葉に対してこういった。
「・・・いや・・・。暴力事件を起こしたのは、ハジメ先生の教え子ではなかったのだよ。
どうやら髪型や特徴が似ていたらしくてな・・・見間違えたんだろう」
「!」
「本当にすまなかった、先生。この処分はもちろん破棄させてもらう。
それに・・・その生徒へとハジメ先生への詫びも何らかの形でとろう。それで今回の件は許してもらいたい」
校長が深々と頭を下げた。
新米のハジメに向かって。
ハジメはあわてる。
「そ、そそそんな僕になんて頭下げないで下さい!!いいんです!
何にも悪い事してないって分かったんならそれで・・・!!」
「ハジメ・・・動揺しすぎだ」
「うっ」
DTOの痛い突っ込みに思わず言葉が詰まる。
それを見、ふぅと息を吐きながら校長に向き直る。
「・・・とにかく、この件とハジメはもう一切関係ないんですね?校長」
「あぁ。全くもってその通りだ。それと・・・」
ハジメが持っていた辞表を奪い取ると、校長はそれを破ってゴミ箱に捨ててしまった。
「こんなもの・・・もういらんからな」
校長はにっこりと、ハジメに微笑んだ。
「よかったな」
「はい!またここで仕事が出来るんですね・・・僕」
職員室に戻る途中、すごく嬉しそうに微笑んだハジメ。
DTOはハジメの頭をわしゃっとかき撫でる。
「・・・まだ、そばに居られるな?」
ハジメはそれを聞いて、がばっとDTOに抱きつく。
「もちろんですよ。っていうか、・・・離れたくないです」
ハジメがまた、そんな事を口走ってしまったものだから。
「・・・馬鹿。ここ職員室の前だぞ」
「え?あ、・・・わぁ!」
自分の目の前に居る、この天然記念物を。
慌てて真っ赤になっているこの後輩を。
「やっぱ、離れんな」
「うわっ」
ぎゅっと、抱きしめてしまうDTOだった。
fin.