「おっし、じゃぁ荷物もって電車乗るぞー」
「はーい」
「・・・・・ちょっと待て」
「何ですか先輩?」
「どうしてお前がここにいる・・・」
「ほら、乗り遅れますよ!」
「あ、こら逃げんなリュータ!!!」

・・・日差しの強い夏の日だった。
駅のど真ん中で論闘を繰り広げているのは、エイトとリュータである。
後輩が電車に乗っても止まる気配はなく、ジリリリと発車のベルがなったとたん走って入ってきた。

だが、まだ争いは終わってはいなかった。

「これは部活の合宿だぞ!?」
「いいじゃないすか、そんな硬い事いわずに〜。っていうかもう乗っちゃったし」
「ッ・・・。・・・はー」
「俺も、参加させていただきますね。先輩w」
「・・・・・もう・・・勝手にしろ・・・」
「はーいv」

・・・どうやら終わったようである。

そう。
水泳部であるエイトとその後輩たちは、合宿のために電車に乗り、海まで行こうとしていたのである。
・・・だが、リュータという金髪の後輩もついてきてしまい、口論になったのだった。
追い出そうにも、もう電車に乗ってしまった。

・・・仕方がないだろう。
エイトは先が思いやられ、大きくため息をついた。






「・・・先輩、今日の練習メニューはどうするんですか?」
「ん?遠泳やるぞ〜」
「えー!!!?」
「はじめー!!」

ピー!と笛の甲高い音が鳴る。

「サボったら今日の夕飯ぬきだぞー!」
「ひぃぃー!!」
「ほら頑張れー!」

広い海を目の前に、後輩たちは呆然としたが、夕飯抜きとなっては辛い。
後輩たちは急いで泳ぎ始めた。
・・・普段はやさしいエイトだが、いったん水泳部モードになるとスパルタエースに豹変する。
遠泳コースを泳ぐ後輩を見、リュータはエイトに話しかけた。

「・・・きびしー先輩」
「何?お前も泳ぎたい?」
「い、いや、遠慮しときますよ」
「何言ってんだついてきたんなら泳げー!!」
「ぎゃぁぁ!!」

にこっと微笑んだエイトに背中を蹴飛ばされ、海に投げ出されたリュータ。
今のエイトには話しかけないほうが無難だった。
だが後の祭り。

「ちくしょー・・・俺だって伊達にバイトなんてやってねぇぞー!!」

ばしゃばしゃばしゃ!!!

やけになって叫び、勢いよく水しぶきを上げて泳いでいく。
・・・蹴飛ばしてから数分後、リュータは見えなくなった。

「・・・意外に・・・速いじゃん、アイツ」

エイトは少し驚いたようにいった。
・・・突然対抗心が燃えて来る。
後追いをするようにエイトも、海に飛び込んだ。


・・・後輩たちが岸に上がってくるころ、競い疲れたエイトとリュータは浜辺で倒れていた。

「・・・先輩・・・速いですよ。俺の後から来たのに・・・」
「っはは、一応水泳部エースだからな・・・負けらんねェもん。・・・お、お疲れ〜」
「は・・・はい、お疲れ様です・・・はー・・・はー・・・」

しばらくそこで息を整え、休む。
皆疲れきっているようだった。

「よし・・・じゃぁ今日は終わり!よく頑張ったな皆。お疲れ様」

屈託のない天使の微笑みを浮かべるエイト。
ぽんぽんと、一人ずつ後輩たちの頭に手を乗せ褒める。
・・・どんなに厳しくスパルタ指導をしても、最後にはちゃんとやさしく褒めるエイトなのだ。

「じゃ、着替えていつもの合宿所に各自集合!!解散!」
「はい!!」

そう号令をかけて解散させる。
そのときはもうすでに、夜になりかけていた。






・・・早々に着替え、合宿所の部屋に入ったエイト。
部員の分の部屋しか取っていなかったので、リュータも一緒の部屋にいた。


「リュータ」

エイトが口を開く。
呼ばれてふと、顔を上げる。

「何すか?」
「お疲れ様。よくがんばったな」
「・・・え」

予想外の言葉。
エイトはにっこりと微笑みながらリュータの頭を撫でた。

「ちゃんと泳ぎきったろ?」
「え、あ、・・・はい」
「オレが無理矢理泳がせたのにさ・・・すげぇよ。途中でギブアップすると思ってたのに」
「・・・へへ、そうですか?」
「おぅ。やるじゃん」

・・・褒められたリュータは、嬉しくなってエイトに抱きついた。

「ありがとうございます、先輩」
「おぁ、リュータ・・・ッ」

ぎゅぅと本気で抱かれたエイトは、苦しくなりばたばたともがく。

「はな・・・せ、苦しい・・・」

・・・真っ赤になりながらそういうと、突然リュータはエイトを押し倒すようにして前に倒れた。

「な・・・リュータ、どうし・・・」
「・・・」

返答がない。
不思議に思い、倒れてきた巨体を起こすと。

「・・・ぐー・・・」

・・・・・眠っているではないか。
エイトは苦笑する。

「・・・今日の遠泳が堪えたか」

水泳部でもないのに。
無理矢理泳がせたのに。
あんな途方もない距離をしっかり全部泳いで・・・。

かなり疲れきったのだろう。
熟睡していた。

「・・・おやすみ」

自分のひざに頭を乗せてやる。
さらっと綺麗な金髪を撫でながら、この上ない天使の微笑みを浮かべた。


・・・どこか憎めない、愛しい後輩を見つめて。

fin.