ここは、船長カイル率いる海賊一家が住む船の中である。
日差しの強い、晴天の朝だった。


「ヤード!ご飯だよ〜!起きてー!!」


女の子の高い声。
ソノラである。
朝ごはんが出来上がり、まずヤードを起こしに来たらしい。
眩しかったらしく、ヤードは軽く目に手の甲を当てた。

「おはようございます」
「おはよー♪・・・ねぇ、今日は起きるの遅かったけど・・・どうかしたの?」

ソノラが不思議がるのも無理はない。
ずっとヤードがベッドから起き上がろうとしないのだから。
・・・いつもなら、もう普段着に着替えて朝ごはんの支度を手伝ってくれているのに。

ヤードは笑って答えた。

「いえ、ちょっと・・・昨日調べ物をしていまして・・・あまり眠れなかったんです」

そう聞くと、ソノラは少し怒った口調で言う。

「えー!ちゃんと寝ないと駄目だよ!調べ物は次の日にだって出来るでしょ?
体壊したら、それこそ駄目だってば!」

それに対し、ベッドから起き上がりながら苦笑し謝る。

「すみません・・・。でももう大丈夫です。・・・さ、カイルさん達を起こさないとですよ?行きましょう?」
「うん・・・でも今日は寝てた方がいいよ、ヤード。後でご飯持ってきてあげるからさ。ね?」
「そういうわけには・・・」
「いーのいーの!今日はゆっくり寝ててよ。また部屋に来るからさ、そのときに起こしてあげる♪」

ソノラはにっこりと笑って、ベッドにヤードを再び寝かせるべく押し込んだ。
ヤードは仕方なく、しぶしぶと寝る体勢に入る。

「・・・分かりました。では・・・少しだけ」
「うん。おやすみぃ♪」

部屋から出て行くソノラ。
ばたん、とドアが閉まる。
そのとたんに、本当に眠かったらしく、ヤードはすぐに深く眠ってしまった。






「・・・あら?今日はヤード起きてないのねぇ」
「珍しいな」
「うん・・・なんか昨日、調べ物しててあんまり寝てないんだって」
「そうか・・・無理するなっていつも言ってんだがなぁ」
「・・・それで、寝かせてきちゃったの?」
「うん、もっちろんよ」
「そう。・・・じゃぁ先にご飯食べちゃいましょう?」
「そうだな。・・・ヤードに飯持っていこうか?」
「うぅん、大丈夫。後であたしが持ってくよ」
「おぉ、じゃ頼むな」
「うん!」

出来上がったばかりの朝食を、3人で食べ始める。
ソノラの隣には、いつもヤードが座るのだが。
今日は空席で。
少しだけ、寂しくなっていたソノラだった。



「・・・さて、ご馳走様。おいしかったわよv」
「えへへ、ありがとう♪」
「料理の腕上げたよなぁ。たいしたもんだ」
「そ、そんなに褒めないでよ〜、うれしい〜」
「っはは、うれしがってんじゃねェか」
「へへ〜♪」

上機嫌で食器を片付けはじめる。
カイルは鍛錬をすべく外へ出た。

スカーレルはソノラの手伝いを少しした後、いすに座った。
・・・頬杖をつきながら突然、食器を洗っているソノラに向かって質問を投げる。

「・・・ねぇソノラ」
「んー?なに?」
「ヤードのこと、どう思ってるの?」
「ッほぇ!?・・・ぅわっ」

びっくりして皿を落としそうになる。
それを見ていたスカーレルは立ち上がって、それをすばやく掴んだ。

「・・・その動揺っぷりをみると・・・何かありそうね」
「・・・・・う」
「・・・好き?」
「ッ・・・・・ぅん」

真っ赤になって首を縦に振ったソノラを見、ぱぁっと顔を輝かせるスカーレル。

「あらあら、かわいい顔しちゃって・・・なぁに?どこが好きなの?」
「・・・えと・・・優しい、所」
「優しい・・・あらそぅ」

スカーレルは確信を持ったようにうなずく。

「うん・・・わかんないことがあったらいつでも教えてくれるし・・・
あ、この間包丁持ったら『危ないですよ』って、野菜全部切ってくれたよ」

そういうと、スカーレルはぷっと吹き出して笑い始めた。

「・・・ッうふふふ・・・そんなことがあったの?」
「うんうん。しかも切るのすごく早くてびっくりしちゃった」
「そう・・・ふふふ」

涙まで目じりにためて、なおも笑うスカーレル。
ソノラは頭の上に?マークを浮かべる。

「笑いすぎだよぉ。そんなにおかしいかなぁ?」

疑問をぶつけると、スカーレルは涙を指でぬぐいながら答えた。

「いぃえ?そうじゃなくてね?・・・あの子・・・好きになった相手には、すごーく優しくなるのよ」
「・・・え?」
「相手を傷付けないように、ヤードなりに考えて接してるってコト」

ぱちっと、ウィンクを投げられる。

「惚れられてるのよ。ソノラ」
「・・・え、う、嘘・・・」
「嘘じゃないわよ。アタシが保障するわ」

顔から本当に火が出そうなほど、真っ赤になったソノラ。
そんなソノラを、背中からぎゅっとやさしく抱きしめる。
ふわっとスカーレルの香水の香りが、鼻先をくすぐった。

「・・・大丈夫よ。いってらっしゃいな」
「・・・うん、ありがとう・・・スカーレル」
「ふふ。がんばってね」

ぽんと、背中を押される。
それと同時に、心まで一緒に押されたような気がした。


―――・・・『大好き』って。

伝えなくちゃ。

あたしは。
ヤードのことが。

『大好き』なんだよって・・・。






「・・・ヤード、ご飯持ってきたよ?」

そう一言、声を掛ける。
・・・返答はなかった。


・・・まだ眠いのかな。
起こさないほうが・・・いいのかも。


「・・・・・」

中に入って、温めた昼食をそっと机に置き、それからじっとヤードを見つめた。
・・・すうすうと、寝息だけが聞こえる。
気持ちよさそうに眠るヤードの横顔。
綺麗な肌。水色のさらさらの短髪。

「・・・好き、だよ」

ぽつりとソノラがつぶやいた。
もちろん、眠っているヤードには聞こえているはずはなかったのだが。

「優しくしてくれて・・・ありがとう、ヤード」

ちゅっと、頬にキスを落とした。
・・・ちょっとした、お礼のつもりで。

「・・・ん・・・」
「ッ!!」

その直後、ヤードがふっと目を覚ました。
びっくりしすぎて、ソノラは真っ赤になったまま立ち尽くしてしまう。

「・・・あ・・・おはようございます、ソノラさん」
「ッぅあ、お、お、おは、よう!!」

激しく動揺しているソノラを不思議に思い、首をかしげる。

「どうしたんです?そんな赤い顔をして・・・」
「どどど、どうもしないよ!!・・・そんなことより、もう大丈夫?眠くない?」
「えぇ。おかげ様で。ご迷惑お掛けしましたね」

頭を下げて謝るヤード。
またも動揺しつつ、ソノラが答える。

「うぅん全然!あ、ご飯持ってきたんだけど・・・食べられる?」
「平気ですよ、病人じゃないんですから」
「そっか・・・じゃぁ冷めないうちに」
「・・・えぇ、いただきますね」

にっこりと笑いかけ、はしを持ち食べ始めた。

・・・胸がまだ、どきどきと五月蝿いほどに鳴っている。
ソノラはうつむいて、ヤードのことを見られずにいた。


「・・・ソノラさん?」

床に正座をして、低いテーブルの上の昼食をつつくのをやめるヤード。
ソノラはまだ動揺しているらしく、真っ赤になったままだった。
それなのに突然呼ばれたものだから、勢いよく顔をあげてヤードを直視することになった。

「え、な、何!?」
「・・・さっきから様子が変ですよ?」
「そんなことないってば!だいじょぶだいじょぶ、へへ」

・・・目線が外れない。
いや、外せない。
こんなに近くにいたら。

ヤードははしを置いて心配そうにソノラを見る。

「そうですか・・・?何か悩み事でも?」
「う・・・」
「・・・なにかあったら、遠慮なく話してください。どんな小さなことでも構いませんよ」

にっこりと笑うヤード。
ソノラはまたさらに赤くなる。


―――・・・どんなことでも、本当にどんなことでもいいの?
・・・あたし・・・言っちゃうよ?
ヤードに迷惑かけるかもしれないよ?

・・・ねぇ。
受け止めて、くれるかな・・・?


「・・・じゃぁ、聞いて」
「はい、なんでしょう?」



・・・もう。
引き下がれない。
・・・うぅん。
引き下がらない。



「・・・好きだよ」

「!!」

「これが、あたしの悩み事・・・」

「・・・っ」

ヤードは頬を赤く染める。
珍しい光景である。
だがそんなことはもうどうでもよかった。

・・・自分の想いを伝えることで。
精一杯だったから。


「・・・悩んで、いたんですか?」
「うん」
「・・・それでさっきから・・・?」
「・・・そう・・・だよ・・・」

今更だったので、はっきりうなずいてしまう。
するとヤードは、ふと暗い顔つきになった。

「それは・・・申し訳ないことをしてしまいました」
「?・・・どうして謝るの?」

ヤードは真剣な表情で答えた。

「・・・私から伝えれば、ソノラさんが悩むことなどなかったでしょう?」

「ひゃ!?」

・・・一瞬、何が起こったのかさえわからなくなった。

目の前が赤と黒に染まる。
それは、ヤードがいつも着ている衣服の色だった。
二人ともひざ立ちになる。
ソノラのかぶっていた帽子が外れ、足元に転がる。

いつの間にか、ソノラはヤードの腕の中にいた。

「・・・あ」
「・・・ずっと、恋焦がれていました」
「っ」

さらに強く、抱きしめられる。

「・・・っヤード」

ソノラが、切羽詰ったように叫んだ。

「なんでしょうか?」
「・・・目、つぶって」
「・・・え」
「お願い」

・・・ヤードは少し困ったが、おとなしく目をつぶることにした。


「・・・ん」

ちゅっ。

「ッぅ」

ヤードは目を見開く。

熱くて、やわらかい感触。
金髪が目の前で揺れる。
間違いなく、ソノラの唇が、ヤードの唇に触れていた。

真っ赤になりながらも、なおそのまま離れないソノラ。

・・・好きで好きで。
たまらなくて。

やっと好きだと言った、この唇を。
離したくなかった。

「・・・ッふ・・・んぅ」

上から急に口内に生温かいものが侵入してくる。
角度も深くなって、ソノラはその場で身動きが取れなくなってしまった。
ヤードはソノラをかき抱きながら、強く唇を押し付ける。

「・・・ッ、ん・・・っ」

少し感じてしまったらしく、ソノラはきゅっとヤードの服のすそをひっぱる。
するとはっと気づいたように、顔を遠ざけた。
二人とも真っ赤になって、ばっと離れる。

「・・・す、すみません・・・っ」
「ぅ・・・うん・・・」

背中合わせでなぜか正座。
あわてて口元を拭う。

・・・そんなことをしても。
熱い、あの感触は消えないけれど。


「・・・へへ」
「ソノラさん?」

突然、ソノラの小さな笑い声が聞こえた。

「どうしたん・・・ですか?」
「・・・ちゃんと、答えてくれてうれしいの」

―――あたしの勝手なキスに・・・十分すぎるくらいにさ。

ソノラは両手をぎゅっと、胸の前で握り締めた。

「ありがと、ヤード」

微笑みを浮かべて礼を言う。
するとヤードもつられるように微笑んだ。


・・・大好きな人と。
一緒にいる幸せを、感じるように。

fin.